従業員は、トング不足を互いに声かけして補充し、混乱していた会計導線のベルトパーテーションを配置換えして改善した。オープンから1週間かつ、大型連休の真っ只中にもかかわらず、体験型業態が直面する課題をリアルタイムで修正しようとする姿は、むしろこの実験の本気度を示していた。
ただし、よりハレ感を打ち出すには、大胆な変更があってもいいかもしれない。例えば、パンの提供スタイルをスタッフ対応に変えるだけで、高級感はグッと増すだろう。
日本でも展開するフランスの老舗ブーランジェリー「PAUL」では、スタッフがショーケースから商品を取り出してくれるが、ケーキ店ならさておき、パン屋でこのスタイルはあまり多くない。結果、「選ぶ」プロセスそのものが演出、他店との差別化になっているのだ。
いずれにせよ、プレスリリースが掲げる「観光と日常が交差する体験型ベーカリー」の完成形はまだ先にある。
牛カツがハレの需要をダイレクトに取りにいく業態だとすれば、BAKERY CAFE Cはハレとケの境界線上に立つ店舗になるだろう。25年春の大阪1号店に続き、東京ソラマチが2号店。課題もあるが、それ以上に可能性を、熱意を感じさせるブランドになりそうだ。
市場が向かう先
この戦略転換は、市場の変化と呼応している。
日本フードサービス協会が26年1月に発表した「外食産業市場動向調査 令和7年(2025年)年間結果報告」によると、25年の喫茶業態の売り上げは前年比109.8%と、ファストフード(107.5%)、ファミリーレストラン(107.2%)、ディナーレストラン(106.6%)、パブ/居酒屋(104.0%)を上回り、全業態の中で最も高い伸び率を記録した。
注目すべきは、同報告書が「日常は節約し、ハレの日の外食(年末年始や夏休み、お盆)にはお金を使うといった消費の選別も進んでいる」と明記する消費者行動の変化だ。物価高を背景に、外食における「ハレとケ」の二極化が業界公式データとして裏付けられた形だ。
消費者が外食の「ケ」を絞り込むほど、「ハレ」への支出は集中する。サンマルクHDはその構造をいち早く読み、「ケの覇者」という土台の上にハレの業態を重ねていった。
祝日の昼、スカイツリースムージーを手にした観光客が楽しそうに写真を撮っている。他のテーブルでは、家族連れがパンを分け合っていた。ハレとケが一つの空間に共存する。サンマルクHDの挑戦を見守りたい。
