生涯を通じて守られ続けてきた人びとと比べると、「ある程度の逆境を経験した人びとのほうが、数年にわたる研究期間を通じて、心の健康状態が良いことがわかりました」とシーリーは言う。
「彼らのほうが人生の満足度が高く、心身の不調を示す症状も少なかった。また、処方箋が必要な鎮痛薬を服用する割合が低く、医療サービスを利用する回数も少なかった。さらには働くことができない状態にある人の割合も低かった」
つまり、押しつぶされない程度の、適度な困難に向き合うことで、彼らは強さと逆境への耐性を高める内面的な力を育んでいた。経験したことのない、新しいストレスに対処する能力が向上していたのである。シーリーはそう説明する。
氷水に手を浸すという実験
シーリーは、自分が大きな発見に近づいていると確信していた。しかし、調査で見えてきた傾向が本当に確かなものなのか、実験室という統制された環境でも再現されるのか。
それを確かめるため、被験者グループを研究室に招き、まずこれまでの人生でどのような困難を何度経験してきたかを尋ねた。そのうえで、氷水を満たしたバケツに手をできるだけ長く浸してもらう実験を行った。
「やはり同じ傾向がみられました」とシーリーは言う。
「人生である程度の逆境を経験してきた人ほど、痛みをあまり強く感じませんでした。ただし、逆境は極端に多くてもよくない。けれど決定的に大事なのは、ゼロではない、ということです。ある程度の逆境を経験した人たちは、痛みを感じているときでも気持ちが悪い方向へ向かいにくく、実験のあいだもその後も、ネガティブな思考が少なかったのです」
シーリーはこのあとも、ストレスのあるさまざまな状況下で似たような実験を繰り返した。たとえば、被験者に試験を受けさせたり、大勢の人の前でスピーチをしてもらったり、というようなことだ。
結果は一貫していた。「ある程度の困難を経験した人ほど、前向きな反応を示します」と彼は言う。「彼らは与えられた状況を恐ろしい試練ではなく、刺激的な機会と認識するのです」
シーリーの研究結果などを受けて、人為的に大きな挑戦をつくり出すことで、同じ効果が得られることを示す研究が、少しずつ増えてきている。
こうした最新の研究は、自然界での壮大な挑戦を通して、スポーツ科学が専門のマーカス・エリオット博士が提唱するような「身体的、心理的、情緒的、そして精神的な」力が得られる可能性に光を照らしている。


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