ニュージーランドとイギリスに拠点をおく研究チームの報告に着目してみよう。彼らは、大自然での挑戦が心理面に与える影響について、100本近い研究論文を調べた。そしてこんな結論に至った――現代の清潔で整備された環境を離れ、未知のストレスに身をさらすことによって、シーリーが論じた「強さ」を身につけられる。
「危険や恐怖、リスクに立ち向かうことで適度なストレスや不快感が生まれ、それが自己肯定感の向上、人格の形成、心理的回復力の促進といった効果をもたらす」と彼らは主張する。
また、ある研究者はこう述べている。日常を離れて自分を試したいという衝動に駆られる人がいるのは、「統制と清潔さが増すばかりの暮らしから逃れることを願い、新たな生き方を模索する時代の兆候でもある」。
苛酷な挑戦は、人間の奥深くに眠る何かを呼び覚ますのかもしれない。なぜならそうした挑戦は、人びとが快適さに包まれる前の時代に対処していたストレスに似た緊張を呼び起こすからだ、と研究者たちは考えている。
そのような理由から、僻地での狩りや登山といった自然界での挑戦のほうが、都市型のマラソンやチームスポーツのような「人工的」環境での挑戦よりも効果をもたらす可能性があるという見解も示されている。
ストレスの強い未知の経験は長く記憶に残る
私はこの点について、アメリカを代表する神経科学者のひとり、ダグラス・フィールズに問いかけた。
彼は米国国立衛生研究所(NIH)の神経細胞学部門を率いる主任研究員であり、神経細胞の働きを研究している。
フィールズによれば、ストレスの強い未知の体験をすると、短期記憶が長期記憶へと移行する。つまり、そこで何が起きたのか、その結果どうなったのか、そして次に似た状況に直面したらどう行動すべきか――そうした一連の学びが、長く残る記憶として刻まれるのだ。
「そもそも記憶とは、未来のためにあります」とフィールズは言う。「私たちは将来生き延びるうえで役に立ちそうな経験を保存するようにできているのです」
(翻訳:須川綾子)


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