確かに「アパートの一部屋をホテルのように貸し出す」というアイデアは、貸す側も借りる側も本能的に抵抗を覚える。貸す側は“生活空間に見知らぬ人を入れる”ことへの不安があり、借りる側は“安全性がわからない場所に泊まる”ことへの警戒心がある。
ごく自然な、人間の防衛本能だ。それにもかかわらず、この発想はホテル業界の大手をも揺るがす存在にまで成長した。その背景にあるのが、Airbnbのブランド・ポジショニングである。
「世界中を自分の居場所にするサービス」
先ほど、ジョブズ氏のプレゼンテーションを例に、「ポジショニングとは他との違いを明確にし、立ち位置をつくること」と説明した。そこで鍵になるのが「対比軸の提示」である。対比軸が定まることで、ブランドの立ち位置は一気に鮮明になる。
「優れているかどうか」は優劣の比較だが、「他とどう違うか」はそのブランドを選ぶ理由になる。つまりブランドの勝敗を決めるのは機能競争ではなく、その立ち位置─すなわちポジショニングによって生まれる違いなのである。
従来の旅行者は、ホテルや旅館に泊まり、均質化されたサービスを享受してきた。安心感はあるものの、体験は画一的で、街の個性や人々の暮らしからは切り離されていた。そこにAirbnbは逆の価値を提示する。人の家に泊まり、近所のスーパーに出かけ、地域の生活に触れる。「旅=観光消費」だったものを、「旅=生活体験」へとひっくり返したのだ。
「一時的に宿泊するホテル」vs「世界中を自分の居場所にするサービス」
これが、Airbnbが示した対比軸である。ホテルや旅館は、ベッドメイク、清掃、朝食ビュッフェ、コンシェルジュといった均質化されたサービスを通じ、旅行者を“旅行者”として迎えてきた。どこへ行っても同じような借り物の部屋であり、自分の居場所にはなり得ない。
