ジョブズは、「どれだけ優れているか」ではなく「他とどう違うか」で語ることの重要性を示した。しかし多くの企業は依然として、「どれだけ優れているか」で自らを語ろうとする。その最大の問題は、“点の勝負”に収束してしまうことだ。
たとえばカメラの画素数、バッテリーの持ち時間、処理速度、価格。こうした数値化できる比較軸はわかりやすいが、その差は最終的にわずか数%に収れんし、やがて埋められてしまう。技術や機能はやがてコモディティ化する。ある企業が発表した新機能は、次の四半期には競合にも搭載される。
数値スペックで争う競争は終わりのないマラソンのようなものだ。消費者にとっても、「一番すごいもの」を記憶し続けることは難しい。やがて市場印象は均質化し、誰がつくっても大差ないという状態に近づいていく。
こうした「点の勝負」は、そもそも記憶に残りにくい。むしろ長期的に支持されるのは、「このブランドは何のために存在しているのか」「自分の価値観とどうつながっているのか」という軸を提示できるブランドである。重要なのは「どれだけ優れているか(better)」ではなく、「他とどう違うか(different)」だ。
どれだけ高機能でも、同じ場所に競合がひしめいていては意味がない。誰もいないポジションを見つけ、そこに旗を立てることこそがブランドの強い武器になる。
「優れているかどうか」が性能や価格といった個別項目の比較、つまり“ 点の勝負”にとどまるのに対し、「他とどう違うか」は、プロダクト、サービス、デザイン、メッセージ、店舗体験などあらゆる接点における比較、つまり“面の勝負”となる。その積み重ねによって、スペックではなく信頼によって差別化されるブランドが生まれる。
多くの人が失敗すると思ったAirbnb
「Airbnbに投資しなかったことは、今でも後悔している」
2012年頃、シリコンバレーで最も影響力のある投資家の一人、Chris Sacca(クリス・サッカ)氏に会った時、彼はこう嘆いていた。
「彼らのアイデアは無謀すぎると思ったんだ。宿泊者が一人でも危険な目に遭えば、その瞬間にビジネスは終わりだからね」
ところがその後、Airbnbはパンデミックの最中に上場し、2020年代半ばには時価総額750億ドル規模へと成長する。こうした未来を、当時サッカ氏を含め、ほとんどの人は想像できなかっただろう。
