だが、そのうちの一人が当時フルーツだけを食べる食事療法をしており、リンゴ農園での手伝いを終えて戻ってきた時、ふと思いついたのが「Apple」という名だった。
「“Apple”という響きは楽しくて、活気があって、威圧的じゃなかった。“Computer”という言葉の硬さを和らげてくれるように感じたんだ。それに、電話帳でも冒頭のページに載るしね」。スティーブ・ジョブズは、ウォルター・アイザックソンの伝記(2011年)でそう語っている。1970年代の電話帳は、今の検索エンジンのような存在だったのだ。
AIが人に勝てない領域
ビッグデータという言葉が一般化して久しい。データを分析すれば、どんなネーミングが成功しやすいか、ある程度は予測できるようにも思える。
さらに生成AIの発展によって、ネーミングのプロセスも劇的に変わりつつある。僕自身もネーミングを考える過程でAIを使うことが存分にあるが、最終的に一瞬で決まることもあれば、数カ月、あるいは一年以上かかることもある。
それほどまでに、ネーミングは正解がない営みなのだ。優れた名前を持つからブランドが成功する、とは限らない。
だが、名前1つがブランドの可能性を大きく変えてしまうことも確かである。データやテクノロジー、サイエンスが支配する時代にあっても、ネーミングには依然としてアートの要素が強く残る。そしてそれは、しばしばブランドの運命を左右する瞬間の決断でもある。
最後に残るのは、数字でも理論でもなく、人間の判断力だ。
