池波先生はその後も大吉に通ったらしく「いろいろ食べて見たが、材料の仕入れによほど努力をしているのだろう」とほめている。池波正太郎ほどの食通ではないが、私の印象もまさにこの通りだった。素朴な味だが、どれも非常に美味しくいただいた。
浅草橋が持つ「垣根の低さ」の正体
突然だが、私はレザークラフトが趣味だ。10年ほど前に小さな巾着を作って以来、かなりはまっている。レザーの世界では、浅草橋は聖地のような街だ。駅のまわりには革製品はもとより、皮革や加工のための道具、ベルトのバックルなどの金具、ファスナーなどを扱う店が多くある。私も定期的に通っている。
そんななかの一軒、「レザーアウトレット アビチ(台東区浅草橋1-34-5)」の店主・藤原元さんに聞いた。
「私ももともと趣味で革をはじめて、この街に来るようになりました。今のこの店は、客として通っていたのですが、前の店主が高齢で跡継ぎもいないということで、2年ほど前に私が引き継ぐことになったんです」
浅草橋は江戸時代から武具の生産地として知られていた。そんなことから革の道具や製品が集まるようになったという。
「私は浅草橋ではまだ新参者なんですが、この街の人たちは本当に垣根が低いんです。もともと人形や玩具の問屋街として、外から来る職人や商人を受け入れてきた歴史があるからか、よそ者に対しても構えないのかもしれませんね。商売の情報も自然と共有されますし、“一緒にやっていこう”という空気がある。長く続く街なのに、閉じていない。そのバランスが、この街のいちばんの魅力だと思います」(藤原さん)
浅草橋は「人形と革の街」として語られることが多い。しかし実際に歩いてみると、この街の本質は産業の種類ではなく、「受け入れてきた歴史」にあるように感じた。





















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