水害を乗り越え、過疎の無人駅で売る弁当が《九州駅弁グランプリ5冠》!…素朴な田舎料理がなぜ人の心を動かすのか?

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味のバランスは、以前試食してもらったアナウンサーからの「鹿児島の人は濃い味が好きだけど、駅弁は県外の人も食べるから少し薄めの味付けにした方がいい」という助言をもとに調整したという。

松下さんのシイタケはこの駅弁に使われたことでブランド価値が高まり、今や地元の老舗デパート山形屋とも取引している。一方山田さんも「松下さんのシイタケがあってこその弁当」と力説する。

素材の味を生かすため、お弁当作りに使う調味料は砂糖、みりん、酒、しょうゆ、塩とシンプル。だからこそ野菜のおいしさ、力強さを感じる。

鹿児島の郷土料理の代表格・ガネ
鹿児島の郷土料理の代表格・ガネ。サツマイモの細切りを粉と合わせて揚げる。作り方は地域、人によってさまざまだが、水を一切使わずに作るのが山田さんのやり方。サツマイモ、ニンジン、ニラを切り、卵と砂糖、醤油、塩を混ぜておくと野菜の水分が出てくるので、そこに小麦粉を絡めてから油で揚げている(写真:筆者撮影)

ガネの作り方は地域の人から教わった。「一昔前は、お葬式があるときはご近所さんたちが煮しめやガネを作って手伝いをしていたんです。そこで教えてもらった味です」と山田さん。

ダイコンとニンジンのなますは「シャキシャキ感を出すために」と、よく研いだ包丁で切って作るのがこだわり。スライサーだと繊維がつぶれてべちゃっとしてしまうそう。包丁を研ぐのは夫・文昭さんの役割だ。

すべての味のさじ加減、調理センスが絶妙である。味の試行錯誤や技術が、この弁当を素朴な懐かしい郷土料理にとどまらせずに、遠くからでもわざわざ買いに来たい、洗練されたごちそうに押し上げているのだと思う。

前回の第15回九州駅弁グランプリでも「田舎料理がこんなにご馳走なんだと気付かせてくれました」と評されている。

過疎の山奥に人を呼び込む

さらにこの駅弁がすごいのは、「地域名物」として過疎の山奥にある無人駅に人を呼び込んでいるところだ。

この駅弁が販売されている嘉例川駅は、1903(明治36)年に営業を開始した築100年以上の木造駅舎が印象的な駅である。鹿児島空港に近いが空港とはつながっておらず、1~2時間に1本の列車が運行するだけの山の中の静かな無人駅だった。

嘉例川駅の駅舎
木造の駅舎が懐かしい佇まい(写真:筆者撮影)
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