日本が直面する「遅れてきた多宗教社会」の実態 善意だけでは解決できない、移民との摩擦の深層

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レオ14世はこの中国との暫定合意は尊重しつつも、「地下教会」への配慮もしています。アメリカでも中国の宗教弾圧は問題視されていて、1998年設立で、第1次トランプ政権の2017年以降に活性化したIRFサミット(International Religious Freedom Summit)は中国の動きを注視していますし、中国から亡命した牧師のボブ・フー(傅希秋)氏は人権団体「対華援助協会(チャイナエイド)」を立ち上げて中国に圧力をかけています。そのほかにも、ウイグルやチベットで繰り広げられている宗教弾圧に抗議するグループがアメリカにはいくつも存在しています。

池内:イスラーム世界の視点に立つと、近代世界ではイスラーム主義だけでは世界に影響力を行使できないことは「イスラーム国」の敗北などで理解していて、ならばパワーを取り戻すために誰と手を組むかと言えば、インドやラテンアメリカと並んで、中国がその相手候補と見られています。

中国がアメリカやヨーロッパに対抗していることは好意的に見られており、中国が提示する経済的メリットはいまも魅力的です。アメリカのパワーや価値に従属するのを避けるために、中国との関係を強化して、みずからの独立と自尊を確保するという戦略的なバランス思考は、政治的に親米の国々でも根強くあります。

そのときに見捨てられかねないのがウイグルです。イスラーム世界の中枢の中東では、ウイグルはそれほど重要ではない辺境と見られがちで、中国との関係を悪化させるくらいならばあえて議題に取り上げずに黙っておくというのが現在の戦略的姿勢です。一方、アメリカのとくに共和党系がウイグル問題に触れているのは、米中競争に鑑みて、取り上げることに対中戦略的な価値が大きいと考えているからでしょう。

日本における宗教理解や宗教研究の現状

松本:宗教が国際政治にさまざまな影響を与えているという点について、日本社会では依然として十分に理解されていないように思えます。池内先生は、日本における宗教理解や宗教研究の現状についてはどのように見ていますか。

池内:まず世界を見渡すと、1990年代から2000年代にかけて、イスラーム世界で宗教的な過激主義が顕著に活動し、彼らが政治的な動員に非常に有効に活用されて国際政治に影響を及ぼしました。

その後、2010年代、そして2020年代に入ると、組織としての宗教は影響力を弱める一方、その価値観は依然として世界を大きく動かしているし、少数派ではあるものの強力に政治的な活動をする組織も存在する。

近代化とグローバル化のもたらす秩序の揺らぎのなかで、あちこちで過激主義が「まだら状」に析出されて政治活動をしている状況が見受けられます。その象徴例がガザ紛争だと位置づけられるでしょう。

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