アメリカの大学の学問レベルは果たして世界のトップなのか? ひたひたと、かつしたたかに追い抜いた中国の大学の底力

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それこそアメリカの大学は、中国人留学生によって大きな利益を得てきたわけだ。ところがトランプは、中国人留学生も規制しようというのだ。 

中国の一人っ子世代は、高学歴志向の世代で、これが中国の技術革新を支えてきたともいえる。その流れをアメリカは断ち切ろうというのだ。アメリカは技術漏洩などと騒ぐが、彼らがアメリカの大学を支えてきたことも確かなのだ。

もっとも、すでにアメリカの大学に進学するものの、結局中国に帰る者も増えているという。

中国に帰国する中国人留学生が増えている

ハーバード大学出身でロンドン大学スクール・オブ・エコノミクスの中国人研究者である金刻羽(Keyu Jin)は、『新中国経済大全―資本主義と社会主義を超えて』(The New China Playbook, Beyond Socialism and Capitalism.Penguin Books,2023)で、こう述べている。

「中国の教育省によると、2000年から2019年まで海外で学業を修めた500万人の学生のうち、86%近くが中国に戻ったということである。――科学者たちや研究者たちは、自らの研究を進めるために、高い給与や、寛大な予算、大きな研究チームに惹かれて中国に移動している。フェイスブック、グーグル、ゴールドマン、ブラック・ロックで仕事を熱望する専門的技術者でさえ、祖国に戻り、あるものは億万長者、あるものはソーシャル・メディアのスターになるために、そこで企業を立ち上げようとしている。――もはや、アメリカやヨーロッパに住むことが、若い中国人の欲望の対象になっていないのだ。今では、こうした場所がかつて意味していた夢は、中国で実現できるのである」(前掲書、285ページ)

西欧で技術習得した者が、祖国に帰って事業を始めているのだ。中国に世界の関心と資本が集まる中、中国でいい研究ができるため、中国に最初から残る者が増えているというのである。

こうしてみると、トランプが予算カットしようとも、中国人留学生を制限しようとも、アメリカの学問研究の覇権復活は手遅れなのかもしれない。

すでに中国は、18世紀まで誇っていた世界の雄としての自信を復活させているのだ。彼女はそのことについてこう記している。

「中国は、かつてもっとも発展した技術をもち、もっともすぐれたインフラをもった、厳しい選抜に勝ち抜いた競争力ある官僚による、豊かな国家であったということを忘れてはならない。中国は、こうしたメリトクラシーという財産によって、近代的ガバナンスへの移行をより容易にし、新しい時代における近代の科学や技術を促進する潜在能力を解き放ったのである」(前掲書、291~292ページ)

彼女のいうことが正しいとすれば、トランプの大学研究予算のカットや、留学生の制限は、アメリカの世界一としての復活どころか、衰退を促進するだけにしかならないだろうと思われる。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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