そういうときに「もっと本を読みなさい」とつい言ってしまったことが私にもあります。しかし、それではいけないのだというのが新井氏の指摘です。
自分自身を思い返すと、たしかに、「シン読解力」とされるものを獲得するために、何年もトレーニングを積んできました。
数学の読み書きにはトレーニングが必要
『シン読解力』の中で、新井氏は、大学生のときに数学の教科書の読み方を教わったと書かれていましたが、私の場合は、大学院の修士課程1年生のときです。指導教授から、数学の教科書の読み方を丹念に教わりました。
当時はブルバキの集合論を読みました。そこでは文字列を文字通りに受け止めて、可能な手続きだけを用いて、変換していきます。「1+1=2」を証明したときは感動しました。
経済学者にブルバキ集合論は必要ないはずですが、私は若いときブルバキを読んで本当によかったという強い実感があります。新井氏の本を読んで、今あれが数学言語の素晴らしい訓練だったということが、よくわかりました。
また、文章をきちんと書けるようになるというのは大学生には非常に大切な指導だと私は考えています。私は新聞の書評委員を務めていた頃は、慶應のゼミ生に、新書を1冊読んで書評を書くという課題を何度か与えていました。
最初からきれいな文章を書ける学生もいれば、書けない学生もいます。でも、数回指導すれば、書けない学生も書ける学生と遜色ないレベルに書けるようになる。基本的には、文章力は、誰もがそれなりに上達できるスキルなのだと思います。ただし専門的なトレーニングは必要です。
また、文章を書くのが下手で、ビジネスで不利になるケースもあるでしょう。とくに出世するほど、組織の人間にメッセージを発する機会は増えます。最近はAIで文章の一定の改善ができますが、人の心を打つものにはならない。魂の乗った文章を書けることの価値は、非常に高いです。
本書では、書かれていることをそのまま論理的に読む力が大事だということ、特に、生成AIが出した文章を読むときに、その力が重要になるということが指摘されています。たしかにその通りだと実感しています。
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