確かに、いつ大災害に巻き込まれるかわからないし、ブラックでない正規の仕事に就けるかもわからない時代になった。自身が安定した家庭環境で育ったとしても、同級生に親が離婚・再婚した、いじめに遭うといった厳しい局面に接した経験をした若者はいそうだ。若者にとっては頼りのSNSも、つねに自分がバッシングを受ける立場になりうる。
つまり、エラーが許されにくい社会になったことを、若者たちは肌で感じているのだ。「結婚するなら男性に安定した収入が必要」「離婚しないで結婚を続ける自信がない」「自分には子どもを育てる資格がない」といった先入観が強い傾向があると阪井准教授は指摘する。
「日本では、もっとカジュアルに同棲して、別れたくなったら別れればいい、といった後押しがない。デンマークでは子どもが生まれると、政府から祝福の言葉とともに、子育てにかかわる公助について解説する手紙が届くそうです。エラーしてもいい、というメッセージが最初に来ると安心できますよね」と話す。
恋愛も結婚も妊娠・出産も、失敗できないと思えば踏み切りづらくなる。「学生の結婚願望は下がっていると思います」と阪井准教授は言う。
日本人を縛る「イエ制度」
こうした世代的なものに加えて、日本特有といえる要因もある。それは日本の近代においては、「個人<家」という概念が根付いていることだ。
「日本は家族主義で、権利・義務といった概念が家族と対立するように考えられてきた歴史があります。和の思想が強く、家は1つの意志であるはずだ、権利という概念が入れば家族が壊れる、と思われてきた」と指摘する。
例えば、「誰もが子どもを産み育てやすい社会」という言葉も、政府が発信するときは「『誰もが』というときに想定されるのは、20代後半から30代の社会人男女のカップル。シングルで子どもを産んだ人やレズビアン、学生などは入っていないように感じます」。
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