「恋愛史上主義」のあの時代を描く名作マンガ 安野モヨコ「ハッピー・マニア」支持されるワケ

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次から次へといろんな男にアタックしては自爆する重田。しかし、そんな彼女にずっと想いを寄せている男がいた。彼女が最初に働いていた本屋のバイトの同僚・タカハシだ。ルックスは平凡で頼りなさそうなメガネくんだが、重田のためなら身の危険も顧みず駆けつける。はっきり「好きです」と意思表示もしているし、実は東大生で家は金持ち。にもかかわらず、当の重田は「こんなのじゃないの もっとカッコイイ人がいいの あたしみたいな女の子 スキにならないカッコイイ男の子」というのだから度しがたい。

猛スピードで転がっていくドラマは痛快至極。重田が唐突に繰り出すギャグもキレキレだ。「あたしはあたしのことスキな男なんてキライなのよっ」と豪語する重田の恋は(当たり前だが)うまくいかない。が、恋愛は理屈や計算でどうこうなるものでもない。ここまでぶっ壊れた“ハッピー・マニア=幸せ探し症候群”な人もめったにいないとは思うけれど、似たような心理に動かされている人はけっこういるのではないか。

『ハッピー・マニア』
安野モヨコ『ハッピー・マニア』(祥伝社)フィールコミックス2巻p130-131より

腰が落ち着かないという点では『アイドルを探せ』のチカと同様だが、受け身のチカと違って重田はどこまでもアグレッシブ。その底抜けに無軌道なキャラクターが、従来にないヒロイン像として「シゲカヨ」を90年代のアイコンたらしめたのだ。

令和男女のもどかしい恋愛『こっち向いてよ向井くん』

令和においては同性間の恋愛を描いた作品も多い。が、それはまた別の機会にご紹介するとして、ここではガツガツしてない今どき男女のもどかしい恋愛を描いた、ねむようこ『こっち向いてよ向井くん』(2020年~)を取り上げたい。

『こっち向いてよ向井くん』書影
ねむようこ『こっち向いてよ向井くん』(祥伝社)フィールコミックス1巻。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

会社員の向井は、35歳の今も独身で実家暮らし。家には妹とその夫も同居している。学生時代から付き合っていた彼女・美和子とは10年前に別れ、それ以来、彼女らしい彼女はいない。ルックスは平均以上、真面目で気配りもできる彼に、なぜ彼女ができないのか。彼のどこに問題があるのか。男と女の感覚のすれ違い、三十路を過ぎた大人の恋愛の機微が、とてつもない精度で描かれる。

そもそも10年前、彼女と別れることになったのは、向井の「美和子のこと ずっと守ってあげたい」という一言がきっかけだ。それを聞いた彼女は喜ぶかと思いきや、「守る? 守るって一体何から? どうやって? 守るって何?」と詰めてきて、その後フラれた。その場面を思い出した向井は、若かった自分が「美和子から見れば頼りなく映ってたんだろうな…」と思っているが大ハズレ。正解はのちに出てくるのだが、なぜ彼女がそのセリフに引っかかったのか、向井と同じくわからない男性は多いだろう。

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