電通グループはなぜ「変革支援」に力を注ぐのか コンサル各社と明確に異なる「強み」とは
広告やマーケティングは、あくまで手段の1つ
――電通グループは広告やマーケティングのイメージが強いですが、なぜ企業変革・事業変革(以下、BX)に取り組んでいるのでしょうか。
豊田 われわれの目的は、よい広告を作ることではなく、顧客企業の課題を解決し、価値を創造し、成長を支援することです。そのために、あらゆる打ち手と可能性を模索し、実践していこうとするDNAがあります。広告やマーケティングはあくまで手段の1つにすぎません。
例えば、新商品や新サービスのローンチにおいて、その商品やサービス、企業の成長を突き詰めて考えていくと、キャンペーン戦略の領域を超えて、商品企画や売り方、チャネルやR&Dといった領域の根源的な課題にたどり着く場合があります。腰痛をなんとしかしたいというお題に対して、そもそもかみ合わせが原因ですね、さらにその原因は虫歯ですね、であれば食事の改善を、と手を打つべき領域が増えていくのと似ています。
ある領域の変革は、他の領域の変革ともリンクしているので、包括的なアプローチが必要になる場合がある。そのことに向き合う中で、広告を超えて、BXの取り組みが自然と始まったという経緯があります。
今の時代は、事業課題が複雑化・多様化しています。ひとつの技術やアイデアだけでは勝てない、複数の要素の緻密な掛け算が必要な時代になってきた。そうした背景もあり、広告・マーケティングを超えたBXのご相談が増えています。それらのご要望にしっかりと対応するため、ケイパビリティを強化し、体制を整えてきました。
人の心が動き、行動が変わって、初めて変革は実現する
――具体的にはどのようなBXの相談が企業から寄せられているのでしょうか。
豊田 中期経営計画策定、新規事業開発、DXなど多岐にわたりますが、最近よくお聞きする悩みとしては、「戦略は立案したが、思ったように変革が進まない」「新規事業の種は生まれたが、次を支える太い柱に育っていない」「パーパスは策定したが、社員の行動や企業文化が変わらない」といったものがあります。
これらに共通する問題点は、大きく3つあります。1点目は、成長のための変革が、いつの間にか「変革のための変革」になってしまうことです。手段が目的化してしまう。プロセスの罠(わな)です。企業の規模が大きくなればなるほど起きやすい問題だと思います。
2点目は、変革に対して包括的なアプローチが足りていないケース。先ほど申し上げたように、ある領域の変革を実現するためには、関連する領域の変革も必要な場合があります。ある領域の変革を、その領域の変革だけで進めようとすることによる限界です。
そして3点目は、「従業員の心を動かし、行動を変える仕掛け」がうまく働いていないこと。結局のところ、変革をドライブするのは人です。戦略がいくら正しくても、従業員全員がその変革に納得し、本気になり、かつ熱量が高くあり続けないと変革は実現しません。プランがきれいにまとめられた数百ページの資料だけが残ってしまいます。
コンサル各社にはない、2つのアプローチと3つの強み
――そういった悩みや課題を抱えた企業に、電通グループはどのようなBXを支援しているのでしょうか。コンサル各社との違いはどんなところでしょうか。
豊田 アプローチに2つの違いがあります。1つは、マーケティング視点が強いことです。われわれは、広告とマーケティングを出自とするグループです。生活者や社会のインサイトを捉え、生活者の心を動かし、さらには生活者の期待と想像を超えていくことを専門領域としてきました。BXにおいても、マーケティング視点から逆算する、もしくは、つねにマーケティングの最終的なアウトプットを計算しながら進める特徴があります。成長には、経営とマーケティングのシームレスな連携が求められます。マーケティングROIがより精緻に計測できるようになってきたこともあり、このアプローチの有効性は高まっていると感じています。
もう1つは、オーダーメイド。コンサルティング会社では、定型化されたフレームワークやメソッドが多く使われますが、われわれはそのアプローチをとりません。企業の課題は百社百様です。また、その企業のビジネスについていちばん知っているのは、言うまでもなく、その企業の皆さんです。解が、すでにその企業の中にあるケースも多い。
なので、その企業のビジネスから少し距離の離れたところにいて、少し違う視点を持つわれわれが、皆さんとの深い対話を通じて、最適解を見つけるお手伝いをする。そして、共に解き切るのが電通のBXです。われわれは、強い当事者意識を持った外部者、「外にいる当事者」を目指しています。
――「オーダーメイドで最適解を見つけて“解き切る”」、言葉にすると簡単なようですが、実際はかなり難易度が高いと感じます。なぜ実現できるのでしょうか。電通グループならではの強みを教えてください。
豊田 電通グループならではの強みとしては3つあります。
1点目は「クリエイティビティ」です。これは、課題のリフレームから、戦略の立案、実行まで、変革の全工程で発揮される、広義のクリエイティビティを指しています。例えば、課題を新たな視点で捉え直し、その企業ならではの戦略を立案する。そして、それをシンプル化・言語化・可視化し、アクションにつながる形で社内に浸透させていく力。電通グループのBX支援では、BXコンサルタントとクリエイティブ人財がセットで顧客企業に伴走するケースもあり、評価をいただいています。
2点目は、広告のプロとして培った、「人の心を動かし、人の行動を変えるノウハウ」。変革プロジェクトにおいて、人とは、従業員そして関係する外部のステークホルダーです。先ほども申し上げましたが、人が熱量高く動かなければ、変革は実現しません。
3点目は、変革の実現までやり切る「実行力」。電通グループのBXは、戦略コンサルではなく、戦略&実行コンサルであると考えています。創業以来、生活者への最終アウトプットにこだわって実際のモノやサービスを作り続けてきたという強み、複数のステークホルダーの意向や課題をまとめて1つの施策に収斂させてきたプロデュース力などを、BX領域でも最大限に生かしていきます。
――具体的にはどんな組織やグループ会社でチームを編成するのですか。
豊田 電通グループには高い専門性と個性を持つ組織が複数あります。
300人強のBX専門組織群で、戦略、企画開発、実施運用の各プロセスにデータとクリエイティビティを融合し、dentsu BXのプロデュース機能を担う電通。「ユニークさ」と「確からしさ」を両立させる戦略構想や実行計画の策定支援で力を発揮する電通コンサルティング。クリエイティビティとデジタルテクノロジーを掛け合わせたDXが強みの総合デジタルファームである電通デジタル。
システムインテグレーション・コンサルティング・シンクタンクの連携により社会の進化を実装する電通総研。新規事業創出とDXを強みとし、投資機能も持つイグニション・ポイント。デジタルプロダクトやWebサービスの戦略・デザイン・開発を専門とするGNUS。さらには、戦略コンサルティングを基盤とし、産業プロデュースまで拡張した“ビジネスプロデュース”に強みを持つドリームインキュベータ(持分法適用会社)など。これらの組織が、課題に応じて最適なフォーメーションを組み、緊密に連携しながら変革を支援しています。
BXのグローバル展開とさらなる進化
――分厚い体制でBX事業に取り組もうとされていることがよくわかりました。今後の展開についても教えてください。企業と社会にどのような価値を提供していくのでしょうか。
豊田 今年(2024年)から、グローバルで「dentsu BX」を拡張・強化していきます。約10年にわたって国内企業の変革を支援してきた結果、海外拠点でも支援してほしいというご要望や、海外企業からのお問い合わせも増えてきたためです。まずは7つのマーケット/クラスター(米国、英国・アイルランド、DACH、北欧、中国、台湾、インド)でサービスを開始します。「ロケーションフリー」というコンセプトの下、例えば、インドのプロジェクトを、インド・日本・英国の混合チームが対応するなど、グローバルワンチームとしてシームレスに稼働していきます。
BXを推進していくと、おのずと企業の本質的な経営課題や事業課題についての理解が深まるため、結果的に既存のコア領域である広告・マーケティングソリューションの質も向上していくと考えています。企業の変革・成長の支援を通じて、社会全体に持続的な価値を生み出すことにより、電通グループの価値創造モデル「B2B2S」(ビジネスtoビジネスtoソサエティ)の実現にもつながると確信しています。
――ありがとうございます。最後に、BX事業を推進していく意気込みをお聞かせください。
豊田 「変革に人もお金も費やしたけれど、期待したほど成果が出ていない」と感じられている企業は少なくありません。多くの企業が変革の難しさに直面されていると思います。うまくいかなければ、やり方を変える必要がある。
電通グループは、従来のコンサルティング会社とも、従来の広告会社とも違う、AとBのどちらでもない、まだないCという新たなモデルをつくっていきたいと考えています。
各領域の専門性に、広告・マーケティング会社という出自ならではのアプローチ、コミュニケーションのプロとしてのユニークさを生かしながら、「外にいる当事者」として、「変革のための変革」ではない「成長のための真の変革」に伴走していきます。