電通グループ「意外な提携先」と手を組んだ理由 「着火点」を増やし、未来を明るく照らしたい

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石田氏と羽間氏
電通グループは2022年5月、企業のイノベーションや変革を支援するイグニション・ポイントと資本提携を締結した。広告やマーケティングのイメージが強い電通グループが、なぜ「イノベーションファーム」を提携先に選んだのか。そして、提携によってどのような未来を切り開こうとしているのだろうか。イグニション・ポイントで両社のコラボレーションを推進する石田氏(電通から出向)、パートナーの羽間氏の2人に話を聞いた。

変革を生み出し続ける「エコシステム」を構築

──電通グループとイグニション・ポイントが資本提携に至った背景についてお聞かせください。

石田 現在、電通グループは「Integrated Growth Partner:顧客企業と社会の持続的成長にコミットするパートナー」を掲げ、広告やマーケティングを超えたより広い領域から顧客企業と社会全体の成長に貢献することを目指しています。そのため、4つの事業領域(AX、BX、CX、DX)に力を注いでいますが、とりわけ時代に即した新たな事業を創造するためのBX(ビジネストランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)に市場のニーズが高まっており、数年前からリソースを増強してきました。

イグニション・ポイントは、新規事業の創出やDX領域に強みを持つうえ、実際の経営で欠かせないファイナンス領域や組織・人事領域にも深い知見を有しています。直近ではコロナ禍以前と比べて売上高が3倍超と業績も右肩上がりで、提携することで複雑化・高度化している企業の課題にスピード感を持って対処できると考えました。

羽間 スピーディーに事業創造やDX支援ができるのは、イグニション・ポイントの大きな特徴です。コンサルティング、イノベーション、インベストメントの3つの軸で事業を展開していますが、相互に連携することでそれぞれのペインポイントを解決してきました。結果、知見がつねにアップデートされ、自社発のサービスや事業も複数創出できるエコシステムが構築できています。私は大手コンサルティングファームの出身ですが、ここまで「足回りよく動く」のは、できるようでなかなかできないんですよね。意思決定が早く、柔軟なチャレンジが可能な点も強みだと思っています。

イグニション・ポイントの3つの事業間連携
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イグニション・ポイントの3つの事業間連携
(出典:https://www.ignitionpoint-inc.com/business/)

一方で、社会へのインパクトという点では物足りなさを感じていたのも事実です。壁に穴を開けることはできても、そこをぐっと広げていくのは決して簡単ではありません。電通グループと提携することで、その課題を解決し、変革の炎を広げていけるのではないかと期待しています。

※AX(Advertising Transformation)は、広告の高度化・効率化を実現する広告コミュニケーション変革領域、BX(Business Transformation)は顧客企業の事業変革を実現するビジネス変革領域、CX(Customer Experience Transformation)は最適な顧客体験をデザインし、実現するカスタマーエクスペリエンス変革領域、DX(Digital Transformation)は顧客企業の事業変革・事業成長を実現するデジタル変革領域。

自走での変革を促す「着火点」を仕掛けていく

――変革に対するニーズが高まっているけれども、実際に変えていくのは難しいという声もよく聞きます。企業をサポートする中で、何が変革の障壁になっていると感じていらっしゃいますか。

羽間 典型的な例としてDX支援が挙げられますが、システム自体は外部リソースを活用するなどすれば迅速に導入できるんです。しかし、「変革の果実」を味わう段階にまで至らず、苦労している企業が実に多い。やはり、最終的には組織や人の意識といったところまで含めて変えていく必要がありますので、多大なパワーが必要です。

石田 「BXやDXに取り組む」というフェーズは多くの企業がすでに通過しています。今、問題が山積しているのは具体的にどう進めていくかという部分。推進する人材や組織に課題を抱えている企業が非常に多いですね。難しいのは、企業変革や事業創造は、従来のやり方に最適化している体制や業務フローとそぐわない部分がどうしても出てくることです。羽間さんが指摘したように、システムは導入できても、ビジネスサイドとつなげるのが難しい。「システム部門がこう言っている、事業部がわかってくれない」といったことが起こってしまうので、ブリッジになる人材が必要なのです。

羽間裕貴氏
イグニション・ポイント 
パートナー デジタルユニット責任者
羽間 裕貴

――今までだったら、例えばコンサルティングファームがそうしたブリッジの役割を担っていました。

石田 はい。確かに、外部からコンサルタントなどをアサインすることも1つの方法です。しかしそれでは、本質的な意味で顧客企業の成長に貢献できません。顧客企業がBX、DXを自走して進められるよう支援するのが重要だと思っています。

羽間 それこそイグニション・ポイントが目指してきたところです。「新たな事業を創造したい」「本質的に変えなければいけない」と希求する企業に、変化の着火点(イグニション・ポイント)を置いていきたいんですね。私たち単体では大きな規模の企業に対応しきれませんでしたが、電通グループとパートナーシップを組むことで、より広範囲に「種火」を展開できる変革のプラットフォームが実現できると考えています。

「顧客理解の深さ」が変革を広げるカギ

――提携から5カ月とまだ日が浅いですが(注:この取材は2022年10月に実施)、手応えはいかがでしょうか。

羽間 電通グループに強く感じるのは、顧客とのリレーションの強さ。営業力の高さは有名ですが、それを支えているのが顧客企業理解の深さだということを実感しています。どれだけ外形的な部分を把握しても、組織力学を理解していなければキーパーソンも見抜けませんし、ステークホルダーマップも描けません。どの部署の誰と組めば最大の成果が得られるのかを瞬時に見抜く嗅覚みたいなものは、変革へのロードマップを最短にするうえで非常に有効だと感じていますし、イグニション・ポイントのメンバーに最も学んでほしいところです。

石田 イグニション・ポイントのスピード感や知見の深さは期待以上のものがありましたし、思った以上に顧客企業に良い反応をいただいています。電通グループとの協業案件において、それこそ「本当に広告会社から変わったんだね」と評価され、コンサルティング支援のプロジェクトが始まった例もあります。

羽間 提携のシナジーという点ですでに成果として表れているのが、とある新規事業創出プラットフォームの案件です。なかなか日本でユニコーンやデカコーンのようなスタートアップが生まれない中で、イノベーション創出を支援する取り組みです。共同運営という形で各プログラムを開催する中で、個社の支援にとどまらず、社会課題解決に貢献していく道筋が見えてきました。

社会課題解決型DXや産業振興で「ゆたかさ」の創出を

――そうした取り組みは、それぞれの社内にどのような影響を及ぼしていますか。

石田航氏
イグニション・ポイント 
執行役員
石田 航

石田 着実に好影響が出ています。私自身、こうして出向していますが、電通には「イグニション・ポイント戦略部」という専門の部署も立ち上がりました。さまざまなプロジェクトで協働しているので、現場の社員同士のコミュニケーションも活発になっています。「今までできなかったことができる」という刺激を受けている人が増えています。多彩なタレントを持つ人材がグループ各社にいるので、交流もより加速させたいですね。

羽間 提携で最も気になっていたのは、イグニション・ポイントのカルチャーが変わってしまうのではないかということでした。まだ10年にも満たないベンチャー気質の会社ですから。でもそんな懸念は杞憂(きゆう)でしたね。思った以上に尊重されていると感じています。

石田 お互いにリスペクトすることは前提として、むしろ共通点の多さを感じますね。イグニション・ポイントの「ゆたかな人生のきっかけを」の理念に集約されるように、取り組んだ仕事がよりよい社会をつくることにつながり、自分にとってもメリットにならなければ取り組む意義がないというスタンスは、電通グループの目指すIntegrated Growth Partnerにも通じると思うんです。画一的な課題解決パッケージを用意するのではなく、顧客企業に伴走して問題の発見から取り組むアプローチも共通しているのではないでしょうか。

――今後の展望をお聞かせください。

羽間 電通グループとの提携を機に、イグニション・ポイントではブランドシンボルやコーポレートサイトも刷新しました。新たなブランドシンボルには、イノベーションの炎で現在と未来の社会を明るく照らしたいとの思いを込めています。それを実現するうえで、「そのビジネスがどう生活者に受け入れられ、プロダクトが使い続けられて広まっていくか」というPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を語れる電通グループのケイパビリティーには大変な価値がありますし、私たちのエコシステムと組み合わせることでより大きなシナジーを生み出したいと思っています。

石田 全国にある電通グループの各社とも積極的に連携し、さらなるシナジーを生み出したいですね。そうすれば、社会課題解決型DXや産業振興への取り組みなど、さらにイノベーションの炎を広げていけますし、日本全体の「ゆたかさ」の創出にも貢献できると確信しています。

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