ISIDから電通総研へ ― 社名変更で描く未来像 第3の創業期迎え、SIerの枠組みを超える存在へ

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ISID代表取締役社長の名和亮一氏
電通国際情報サービス(ISID)が、2024年1月1日付けで社名を電通総研に変更し、子会社2社を統合して電通グループ内のシンクタンク「電通総研」の機能も移管する。近年増収増益を続け、この10年で大きく時価総額を伸ばしている※1好調なSIerが、なぜこのタイミングでリブランディングに踏み切ったのか。代表取締役社長の名和亮一氏に聞いた。
※1 電通国際情報サービス(ISID)の時価総額は、2013年3月末時点で約315億4800万円だったが、2023年11月14日時点で約3060億3200万円となっている

SIは今後も主力だが「だけじゃない」企業へ進化

電通国際情報サービス。ISID(Information Services International-Dentsu, Ltd.)という略称のほうがなじみ深い人もいるかもしれない。実はこの社名は、創業時の事業に由来している。

「1975年にGE(ゼネラル・エレクトリック・カンパニー)と電通の合弁で設立された当社が最初に手がけたのは、民間初※2の国際間情報処理サービスでした。GEのコンピューターを国際ネットワークで共同利用するTSS(タイムシェアリング・サービス)という事業です。パソコンもインターネットもなかった当時、今のクラウドのような役割を果たしていました」
※2同社調べ

そう語る代表取締役社長の名和亮一氏は、設立後間もない1981年に入社。以来、40年以上にわたって同社と歩みを共にしてきただけに、社名への愛着は強い。

「本音を言えば、今回の『電通総研』への社名変更で、長年親しんできた名前がなくなるのはすごく寂しいです。近年、ISIDの認知度が上がってきたと感じるだけになおさらです。でも、業績が好調な今こそ、変わらなきゃいけない。自己変革のチャンスだと考えました」(名和氏)

ISID代表取締役社長の名和亮一氏
電通国際情報サービス(ISID、2024年1月から株式会社電通総研に社名変更)
代表取締役社長 名和亮一氏
1981年電通国際情報サービス入社。2011年執行役員、18年取締役常務執行役員、19年1月より現職

社名変更に踏み切ったのは、変革の姿勢を社内外に強く打ち出す狙いがあることは言うまでもないだろう。背景には、社会のニーズが大きく変わってきたこともある。デフレ下ではITによる業務効率化とコスト削減が求められてきたが、現在はインフレに転じ、新規事業や付加価値の創造がより重視されるようになった。必然的に、システムインテグレーション(以下、SI)を担うSIerに求められる役割も変わってきている。

「われわれは、随分前からコンサルティング事業に力を入れてきました。SIをはじめとするITソリューションの提供はもちろん当社の強みですが、『SIだけをやっている』というイメージからは脱却したいのです」(名和氏)

2030年までに「売上高3000億円規模」が目標

名和氏のこの考えは、昨日今日生まれたものではなく、企業文化として長年受け継がれてきたものだ。電通グループの一員であるため誤解されることも多いが、ISIDは親会社のシステム部門から発展したいわゆるユーザー系SIerではない。グループ外の企業を中心に、潜在的な課題を見つけ出し、それを解決するソリューションを提供することで成長してきた会社である。製造および金融業向けソリューションや、人事・会計ソリューションなど、市場シェアを獲得している幅広い領域が複数あるのがその証しだ。

「ただ、それらがうまく連携できていなかったのも事実です。合計の数字はそれなりでも、顧客や社会にもたらすインパクトにはどうしても欠けていました。そこで2019年に掲げたのが『X Innovation(クロスイノベーション)』です」(名和氏)

これは、組織や領域を問わず「クロス」する機会や場所を創出する取り組みである。19年12月期からの業績推移を見ると、すぐに結果が出ていることは明らかだ。

電通国際情報サービス連結財務情報
売上高の推移。2014年3月期から今日に至るまで、成長を続けていることがわかる

この上昇気流を本格化させようという意気込みを示したのが、22年2月に発表した長期経営ビジョン「Vision 2030」。30年までに、売上高3000億円規模の企業グループを目指すという目標を明示したのである。

ISID「Vision 2030」
2030年には、多様な人材、多彩なテクノロジー、多種のソリューションを持つ「クロスイノベーター」へ

「第3創業期」としてリポジショニングも果たす

2030年までに、売上高を現在の倍以上に引き上げるため、どんな手を打つのか。社名変更という大きな決断に伴う施策として注目したいのが、機能拡充だ。

現在、4つのセグメント(金融ソリューション、ビジネスソリューション、製造ソリューション、コミュニケーションIT)を展開しているが、子会社のコンサルティング専業会社2社(アイティアイディおよびISIDビジネスコンサルティング)を本体に統合。さらに、シンクタンク機能を持つ電通グループ内の組織、電通総研も移管する。

「クロスイノベーションを実現させるには、戦略策定を支援するコンサルティング機能を強化するだけでなく、社会や企業に対する提言および調査・情報発信を行うシンクタンク機能が必要だと判断しました」(名和氏)

アイティアイディもISIDビジネスコンサルティングも、製造業向けコンサルティングからスタートし、堅調に成長している。生活者や社会に対するインサイトを積み重ねてきた電通総研の分析力、提言力も加わり、社としてのケイパビリティーはさらに厚みを増す。今回の機能拡充により「社会の課題解決にも貢献できる基盤ができた」(名和氏)ことも踏まえ、顧客に対してよりインパクトのある提案ができる状況となってきているのだ。

「約50年の歴史で、ISIDには2度の創業期がありました。最初の約20年間はTSS事業が中心でした。1990年代中盤にパソコンが普及し、TSSからSI事業へシフトしたのが第2創業期です。2000年に上場してから四半世紀近くが経過し、社名変更と統合・機能拡充を行う今は、第3の創業期と位置づけています。SIだけではなく、シンクタンク機能とコンサルティング機能を強化してリブランディングし、業界におけるリポジショニングも果たします」(名和氏)

「電通」+「総研」で実現可能性の高い支援を

リブランディングとリポジショニングへの思いは、「電通総研」というネーミングからも伝わってくる。「電通」「総研」の双方に思い入れを込めていると名和氏は明かす。

「われわれは上場企業ですので、経営戦略も事業戦略も独立して運営していますが、真摯に顧客と向き合う姿勢や人間としての魅力などは、電通グループ共通のDNAを有していると思います。加えて、『クロス』し合う関係としても、これほどシナジーが期待できる協業先はいないのではないでしょうか。電通グループは、マーケティング力はもちろんですが、実行可能性を兼ね備えた広い意味でのクリエーティブ力に長けています。テクノロジーが今後さらに進化していく中で、こういったシナジーから生まれるケイパビリティーが社会に貢献できる可能性は非常に大きいと思うのです」(名和氏)

電通総研ロゴ
電通総研のロゴ。漢字の「人」と記号の「×」(掛ける)がシンボルマークのモチーフとなっている

「総研」という言葉を選んだのは、特定のジャンルだけにとどまることなく、いい意味でミステリアスな可能性を示したいとの思いがあったという。「総研」という言葉に対し、社会や生活者をしっかりと支える信頼性の高さをイメージする人が多かったのも決め手となった。テクノロジーの提供を基盤に、変容するニーズにも常時高い水準で対応し続けるという覚悟がうかがえる。

「企業や社会、その先の生活者をしっかりと支える存在になるため、まずは人材組織拡充に力を入れています。2024年度には現在から400人増の4000人、30年度には約2倍となる7000人へとグループ従業員を増やしていきます。手前みそですが、働きやすい環境づくりにも力を入れてきたと自負していますので、人間的魅力にあふれる仲間と共にテクノロジーの提供を通して社会に貢献したい人は積極的に門戸をたたいていただきたいと思います」(名和氏)

不確実性の時代という言葉をかみしめるような事態が次々と起こる昨今。「少なくとも、テクノロジーが進化することだけは確かだ」と発する名和氏が率いる新・電通総研は、SIerの枠組みを超えてどのような存在感を放つのか。今後の動きから目が離せない。

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