電通グループとドリームインキュベータの挑戦 「新規事業の難しさ」知り尽くした2社がタッグ

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ドリームインキュベータ執行役員・野邊義博氏と電通ビジネスデザインスクエア変革プロデュース第1グループ部長・渕暁彦氏
電通グループとドリームインキュベータ(DI)は、2021年5月に資本業務提携を結んだ。電通グループには広告会社のイメージが強いため、国内戦略系コンサルティングファームの雄であるドリームインキュベータとの提携を、意外と捉える人もいるだろう。提携から1年半経った今、どういった成果が見えてきたのだろうか。両社のキーパーソンに話を聞いた。

事業創造は今や経営のトップアジェンダだ

2021年、資本業務提携を結んだ電通グループとドリームインキュベータ。両社の提携は、企業の事業創造と持続的成長を支援する「ビジネストランスフォーメーション(BX)」の強化を目的としたもので、1年半とまだ日は浅いが成果を次々に挙げている。多くの企業が新規事業創造に課題を抱える中で、困難な「0→1(ゼロイチ)」の価値創造を実現できている理由はどこにあるのだろうか。互いに隔たった事業領域にいると思われた両社だが、実は目指す方向性はもともと一致していたとドリームインキュベータ執行役員の野邊義博氏は話す。

ドリームインキュベータ執行役員・野邊義博氏
ドリームインキュベータ 執行役員
野邊 義博

「ドリームインキュベータでは、業務改善やコスト削減といった一般的なコンサルファームが得意とする業務ではなく、早くから『ビジネスプロデュース』というコンセプトを打ち出し、イノベーションを起こしていくことに価値の根幹を置いてきました。『社会を変える 事業を創る。』というコーポレートミッションを掲げ、『顧客企業の事業創造とトップラインの成長に貢献する』という想いは、電通グループと一致しています」(野邊氏)

実際、現在の電通グループは、広告やマーケティングを超えた領域から顧客企業の成長をサポートしている。その姿勢を明確に示したのが、2021年発表の中期経営計画。国内事業では、「IGP(Integrated Growth Partner)」を掲げ、「顧客企業と社会の持続的成長にコミットするパートナー」を目指すとしている。この背景にあるのは、企業を取り巻く環境の急変だと電通ビジネスデザインスクエア 変革プロデュース第1グループ部長の渕暁彦氏は説明する。

「さまざまな産業でコモディティー化が進み、加速度的な人口減少も予期されています。目に見えて市場がダウンサイジングしていく中で、業界を問わずどの企業の経営者も『変革のロードマップ』の描き方を模索しています。5年後、10年後の持続的な成長のために、事業機会をどう広げ、どんな価値を提供すればよいのか考え続けているのです」(渕氏)

経営者の危機感は、データにも表れている。ドリームインキュベータの調べによれば、東証プライム上場企業の売り上げ上位100社のうち、11年時点で新規事業部門を設立していたのはわずか3社。ところが、21年には81社と8割以上を占めた。直近3年間で全体の半数近くとなる49社が設立と、そのペースは年々加速。「事業創造が経営のトップアジェンダとなってきた」と野邊氏は指摘する。

「10年前の新規事業部は、企業の中でも中心的な存在ではなく、『あわよくば利益につなげたい』といった位置づけだったと思うのです。しかし、既存事業の成長が飽和していく中で、単に新規事業を始めるだけでなく、企業全体の変革を見据えた事業創造の体制を整えるようになってきました」(野邊氏)

売上上位100社の新規事業部門の設立社数の推移

2社間の壁打ちだけで予想外のシナジーが

もちろん、専門部署を立ち上げるだけで実現できるほど、「0→1(ゼロイチ)」の価値創造を、特に次の柱となる事業規模で狙っていくことは簡単ではない。

「既存事業の改善や効率化を行い、収益を出していくのも大変です。しかし、新規事業で新たな価値を創造するのは、さらに難しい。構想・戦略の策定だけではどうにもなりません。いろいろな力を持つ人たちを、既存の枠を超えて巻き込んでいく必要もあります」(野邊氏)

自社だけでは、その道筋を描くのもスムーズにはいかないだろう。事業創造・企業変革を支援するパートナーが求められるのは自然の流れであり、顧客企業と社会の持続的な成長にコミットする電通グループとビジネスプロデュースというコンセプトを打ち出すドリームインキュベータがタッグを組んで体制強化に踏み切ったのは、社会的にも意義のあることだといえよう。

電通ビジネスデザインスクエア変革プロデュース第1グループ部長・渕暁彦氏
電通 
電通ビジネスデザインスクエア
変革プロデュース第1グループ 部長
渕 暁彦

「現実問題として、顧客企業からの事業創造・企業変革の相談は急増しており、体制の強化は急務でした。両社が提携したことで、リソースの拡充だけでなく、異なる視点をぶつけ合えているのが非常によいところだと思っています。実際、両社間で“壁打ち”をするだけで、自社だけで構想を描くよりも広がりが生まれるのを感じます」(渕氏)

電通グループの旧来のイメージから「戦略はドリームインキュベータ、クリエーティブや実行支援は電通グループ」と役割分担をしていると考えがちだが、実はそうではない。同じ目的を見据えたもの同士が、構想・戦略策定の段階からそれぞれの強みである視点をぶつけ合うのが肝なのだ。

「『事業創造・企業変革によってこんな価値を生み出したい』と積極的に取り組む企業は増えましたが、生活者が置き去りになっている構想も多いとも感じています。やはり、しっかりと事業化して企業の成長につなげていくには、市場のインサイトや生活者のニーズを踏まえ、新たな需要を描かなくてはなりません。そのためにも、官民連携の事業創造を多く支援してきたドリームインキュベータの『技術・ビジネス・政策視点』に電通グループの『市場・生活者視点』を加える意味は大きいのではないでしょうか」(渕氏)

人基点の「価値の再定義」が需要を創造する

技術戦略や政策視点に長けているドリームインキュベータと、価値や意味を「人」基点で再定義する力や、不確実性の高いシナリオの実現可能性を高め具現化するノウハウを持つ電通グループ。両社の強みが掛け合わさることで、すでに興味深い成功事例がいくつも生まれている。

とある素材メーカーでは、CO2排出量を大幅に削減できる新素材を開発・製品化したが、低コストの従来品の代替え需要を生み出せずにいた。CO2の排出量削減のメリットより、コストアップ、切り替え作業へのネガが勝り、画期的な製品であるにもかかわらず、市場導入が進んでいなかった。

「そこで、CO2排出量削減以外の価値を探ろうと、隅から隅まで調べ尽くしました。すると、工程で使用される有機溶剤の使用量を大幅に抑えられることがわかったのです。有機溶剤は臭気がきつく、工程に配置する人数や時間にも影響するのですが、使用量を減らすことでそうした制限も少なくなります。環境やコスト対策に加え、従業員の労働環境改善や働き方改革も生みだすソリューションとして価値を再定義できました」(渕氏)

このような両社の提供価値を体系化したサービスの1つに、2022年7月に提供開始した「R&Dトランスフォーメーション」がある。

R&Dトランスフォーメーション

「既存事業が“右肩下がり”になり、新事業創造への機運が高まると、R&D部門へのキッカケづくりの期待が高まります。そうすると、マーケティング視点による価値の再定義や研究テーマの探索、事業化を見越した動きも加速しなければなりません。こうした一連の動きに伴走し、研究成果と市場を最短で結びトップラインの成長に貢献していきます」(渕氏)

両社メンバーの活気が成果を生む好循環に

こうした取り組みは、顧客企業のみならず両社の社内にも好影響を及ぼしているようだ。ドリームインキュベータでは、とくにコンサルタントとして脂の乗った5~6年目のメンバーによい刺激となっているという。

「電通グループとタッグを組むことで、プロジェクトが大型化し、実行段階で介入できる部分も多いので、やりがいにつながっているようです。仕事として面白いこともそうですが、自社だけで提供できるよりも大きな価値を顧客企業に提供できるのが魅力ですね。ポテンシャルも引き出されているようで、電通グループとの打ち合わせでのドリームインキュベータのメンバーの発言に驚かされることも少なくありません」(野邊氏)

同様の刺激は、電通グループも当然受けており、それを促すための工夫もしている。両社協業推進のコアメンバーは少人数とし、プロジェクトごとに様々なセクションからメンバーをアジャイルに組み合わせている。「シナジーを生み出すチームをいかに多くプロデュースできるかが協業の裏コンセプト」(渕氏)だというが、そうした組織活性化の打ち手は、当然ながらプロジェクトの質を引き上げることにもつながっている。

「今年、電通グループにとっては既存大手クライアントだが、ドリームインキュベータは取引のない企業で、コンサルティングファームだけが呼ばれるコンペがあったのですが、両社でタッグを組むことで受注するケースも出てきました。コンサル各社がシステムのリプレースや戦略の再構築といった持ち味を出す中で、われわれは戦略はもちろん具体的な実行計画からビジネスモデル、一目でわかるデザイン案まで打ち出した事業創造を提案しました。この案が評価されたことは、大きな意味があると思いました」(野邊氏)

コンサルティングファームに期待していたはずの企業が、従来のコンサルティング手法とは一線を画する「電通グループ×ドリームインキュベータ」を採用する――。いかに時代が価値創造を求め、変革に伴走する新しいパートナーを必要としているのかがわかる象徴的なエピソードではないだろうか。意外にも見える両社のコラボは、事業変革という経営アジェンダに対してヒントとなるアプローチかもしれない。

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