3名のキーパーソンが語る、新・電通総研の未来 ISID「社名変更」でSIer超えたポジションへ

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左から電通総研の前田氏、岩本氏、寺嶋氏
独立系SIerとして約50年の歴史を積み重ねてきた電通国際情報サービス(ISID)が、2024年1月1日付で社名を「電通総研」に変更する。同時に、子会社のコンサルティングファーム2社を統合し、電通グループ内のシンクタンク「電通総研」の機能を移管するが、そこにはどんな狙いがあるのか。24年3月22日に「電通総研」の代表取締役社長に就任予定の岩本浩久氏を中心に、システムインテグレーション、コンサルティング、シンクタンク機能を担うキーパーソンに話を聞いた。

課題設定や戦略策定からテクノロジーの実装まで、
企業と社会の高度な課題解決に貢献

――「電通総研」への社名変更とコンサルティング機能およびシンクタンク機能の拡充について、それぞれの立場でどう受け止めているのかお聞かせください。

岩本 私は長年ISIDで幅広いシステムインテグレーション事業に携わってきましたが、日々お客様や社会と向き合う中で、求められることが大きく変わってきていると感じています。従来のISIDはいわば黒子のように、お客様の要件を取りまとめ、実現し、コスト削減や業務効率化に貢献するといった側面的支援を担ってきたわけです。

しかし今は、お客様とともに要件を定義することはもちろん、生産人口減少やカーボンニュートラルといった社会課題解決への取り組みや持続可能な開発目標(SDGs)への対応などに、どう取り組むべきかを考えるところから、支援を求められるようになりました。システムインテグレーションを基軸としながら、コンサルティング機能やシンクタンク機能も備えて能動的なパートナーになっていかないと、こうした課題解決に貢献できないと感じています。

電通国際情報サービス(ISID、2024年1月から株式会社電通総研に社名変更) 専務執行役員 事業統括 岩本浩久氏
電通国際情報サービス(ISID、2024年1月から株式会社電通総研に社名変更)
専務執行役員 事業統括 岩本浩久氏
1995年電通国際情報サービス入社。2018年執行役員、19年上席執行役員、21年常務執行役員を経て23年1月より現職。24年3月22日、電通総研の代表取締役社長へ就任予定

ISIDはずっと、お客様から「システムの要件を伝えれば期待以上のものを作ってくれる会社」と高い評価をいただいてきました。でも裏を返せば、上流工程への貢献に対する期待は少なかったかもしれません。システム開発の枠を超えて、「何のためにどんな取り組みをするべきか」という課題の設定からその解決までをお手伝いできる会社に進化を遂げる時がやってきたと意気込んでいます。

寺嶋 24年1月1日、ISIDビジネスコンサルティング(isidbc)とアイティアイディ(ITID)は電通総研に統合されます。私はISIDビジネスコンサルティングでさまざまな企業のご支援をしてきましたが、例えばDX推進においても、実現内容やスピード感に対するお客様の要求が年々高まり続けていることを痛感しています。

その実現には、デジタル戦略の策定、部門の壁を超えて変革を進める文化の醸成、組織再編成や人材採用・育成といった推進体制の整備などの施策を全社で同時並行的に取り組む必要があり、コンサルティング会社に対してもその支援を期待されています。

アイティアイディは、製造業の設計・開発領域に強みを持ち、ISIDビジネスコンサルティングは、課題設定や戦略立案から実行支援までを包括的に提供できる会社として独自のポジションを築いてきました。今回の統合で、システムインテグレーションおよびシンクタンク機能との密な連携が可能になることにより、お客様のより高い期待にスピーディーに応えられる存在になっていけると確信しています。

ISIDビジネスコンサルティング(2024年1月から株式会社電通総研へ統合) 代表取締役社長 寺嶋高光氏
ISIDビジネスコンサルティング(2024年1月から株式会社電通総研へ統合)
代表取締役社長 寺嶋高光氏
国内大手SIer、外資コンサルティングファームを経て、2002年電通国際情報サービス入社。13年にISIDビジネスコンサルティング創業メンバーとなり、その後同社経営戦略コンサルティング本部長、取締役を経て、21年より現職。24年1月より、執行役員 コンサルティング本部長へ就任予定

前田 企業と社会の高まる期待に応えたいという思いを募らせているのは、シンクタンクである旧・電通総研も同じです。今回の社名変更を機に、旧・電通総研はISIDの研究開発組織である「オープンイノベーションラボ(イノラボ)」と統合します。さらに、FinTechのエコシステム形成および新規ビジネス創出を推進する「FINOLAB(フィノラボ)」とも連携します。旧・電通総研が1987年の立ち上げ以来テーマとしてきた「人間研究」と、イノラボの「先端技術」、FINOLABの「事業創出」が掛け合わさることで、研究成果を新たなイノベーションにつなげやすくなるとして、研究員たちも沸き立っています。「HUMANOLOGY for the future ~人とテクノロジーで、その先をつくる。」という経営ビジョンを具現化するための、研究開発と情報発信をできることが非常に楽しみです。
※三菱地所51%、電通国際情報サービス49%の株主構成比率で運営

電通国際情報サービス(ISID、2024年1月から株式会社電通総研に社名変更) 常務執行役員 事業統括補佐 前田真一氏
電通国際情報サービス(ISID、2024年1月から株式会社電通総研に社名変更)
常務執行役員 事業統括補佐 前田真一氏
1987年電通入社、2019年同社執行役員。23年1月、電通国際情報サービス入社。23年より現職。24年1月より、常務執行役員 事業統括補佐 ヒューマノロジー創発本部長へ就任予定

3機能が連携し、「縦横」の幅を広げる

――今回の統合・機能移管によって、どのようなシナジーの創出を見込んでいるのでしょうか。とりわけシンクタンク機能を新たに拡充する狙いについて、詳しく教えてください。

岩本 シンクタンク機能を拡充するのは、研究・情報発信を強化しようという狙いだけではありません。それならば、わざわざ統合しなくても、同じ電通グループですから連携すればいい。システムインテグレーションとコンサルティング、シンクタンクのそれぞれのメンバーが1つの組織で同じ目的を持って協働し、共通の課題に対して共に切磋琢磨することで、社会やお客様の困り事の抽出・整理から解決策の実装までを本当の意味でワンストップ提供できるようになると考えています。

社会課題の抽出や解決に向けた提言、上流工程での戦略立案は、それ単独ではお客様にとって意味がありません。それらをしっかりと実装、実現し、運用して初めてお客様にとっての真の価値が創出できます。そのために、シンクタンク機能とコンサルティング機能を同じ組織内に持ち、連携する必要があるのです。

寺嶋 コンサルティング機能としては、幅広い業種での実績を有するISIDに統合され、電通総研という1つの組織となることで、今まで製造業の支援で培ってきたノウハウやセオリーを、産業横断的に活用・展開できると考えています。川上から川下までをワンストップで支援できるだけでなく、金融や医療、食品といったさまざまな業界へ横展開できるのです。

また、脱炭素やサーキュラーエコノミー、資源ロスの低減など、多くの企業が直面している社会課題に個々で対応するのではなく、複数社で取り組む必要があると感じる場面が多くあります。

これまで、自動車メーカーの経営層を集めるコンソーシアムで、社会課題につながる共通テーマを設定し、ISIDのITソリューションで解決するような取り組みを進めてきました。今後、企業に求められる本当の意味での変革は、このように複数社が連携し、市場と社会課題に対峙していくことではないでしょうか。

シンクタンク機能の移管・統合により、既存のビジネスの枠組みを超えた共創が求められる中で、いち早く課題を捉えることができる意義は大きいですし、マーケットにインパクトを与えるポテンシャルは高いと感じています。

前田 シンクタンク機能を統合する観点から言うと、これまで培ってきた生活者インサイトの強みをそのまま新・電通総研ですぐに生かせるかというと、そんなに簡単ではないと思います。新・電通総研が目指す方向と合致させて、言いっ放しではなく形になるところまでを視野に入れた実践型の提言にアップデートすることで、シナジーを生み出せると考えています。

左から電通総研の前田氏、岩本氏、寺嶋氏

「今までにない総研」を目指して

――3つの機能を一体化させることで生まれる可能性について教えてください。

前田 「社会進化実装」。これは、新・電通総研の事業コンセプトを表す言葉として策定したものです。

ESGやサステナビリティなど、企業にも社会との強固なつながりが求められるようになってきましたが、現状では企業と社会、自治体、生活者は意外とつながりに欠けています。いくら優れた企業でも、1社で成し遂げられることには限界がありますし、産官学連携で大きなムーブメントを起こすことで初めて実現できることもたくさんあります。そうした見えない分断を丁寧に見つけ出し、しっかりとつなぎ合わせていくことが、新・電通総研の提供できる価値であるし、可能性だと思います。

寺嶋 この事業コンセプトは、コンサルティング事業に携わるメンバーも非常にポジティブに受け止めています。先日、泊まりがけでグループディスカッションに取り組んだのですが、製造業のバリューチェーン(設計・開発・生産・販売)領域をコアとした企業変革支援は今までどおり大切にしながら、社会変革という大きなテーマに対峙できることへの期待が次々に出てきました。

岩本 ISIDでも社内の反応は前向きです。コンサルティングとシンクタンクの機能が拡充されることで、キャリアの選択肢が広がったという受け止め方もされています。印象に残っているのが、「今後のキャリアパスを真剣に考えるきっかけとなった」という社員の言葉です。人的資本経営の重要性が指摘されていますが、こうして統合・機能移管をしたことが一人ひとりの可能性を広げ、ISIDが大切にしてきた「人間魅力」をさらに高めるきっかけになっていると感じます。

――ありがとうございます。最後に、新・電通総研の船出に際して意気込みをお聞かせください。

寺嶋 就職活動でよく使われる業界のカオスマップでは、ISIDはこれまでSIerに分類されていました。でも新・電通総研になったら、変わってくると思うんです。従来の分類では収まらない、社会変革と企業変革をトータルでサポートする企業として新たなポジションを築いていきたいと思っています。

前田 まだ取り組み始めたばかりですが、システムインテグレーションとコンサルティング、シンクタンクが足並みをそろえて企業や社会に向き合うことで、できることの幅を増やし、お客様ひいては世の中の元気づくりにつなげていきたい。それに共感してもらえる人に積極的に集まってほしいと思います。

岩本 これまで培ってきた人間力とテクノロジーでよりよい社会への進化を実装するのが新・電通総研の目指す姿です。テクノロジーはもちろん欠かせませんが、変革を実現するのはやはり人。ITには無機質なイメージもありますが、約30年間働いてきた経験から、私はITこそアナログな取り組みが非常に重要だと思います。人を大切にし、「人間魅力」を高めて社会変革に取り組むことで、電通グループ全体を活性化し、社会全体にインパクトのある価値を創出し続けていきたいですね。

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