仕事はスーパーのレジ打ちや飲食店での皿洗い、工場内の作業など。ただユウジさんの経験からいうと、人間関係はおしなべてすさんでいるという。
「あいさつをしても無視されることがほとんど。狭い通路をすれ違うときもよけたりしてくれません。『どうせ単発バイトで来るような落ちぶれた人間』と、見下されているように感じます。レジの仕事で誤ってお店控えをお客さまに渡してしてしまったときだけは、『ちゃんとしてよ』『困るんですよね』と、ここまで言う? というくらいしつこく叱られました。最初に普通に教えてくれればいいだけなのに……」
「どうせその日限り」で人間関係も希薄
即時振り込みは魅力だが、今年のゴールデンウイークには、こんな“事件”もあったという。
その日、所持金は1000円を切っていた。アプリから応募した仕事は飲食チェーン店での皿洗い。殺人的に忙しい夕方から夜にかけての5時間、汗だくになって洗い場に立ち続けた。これが終われば5000円が振り込まれるはず。しかし、コンビニのATMを何度確認しても入金はなかった。どうやら銀行のほうが、連休中は対応時間外だったらしい。
帰りの交通費に70円足りなかった。「バイトが終わった時点ですでにヘロヘロのボロボロ」だったが、やむを得ず電車を途中下車。そこから6時間以上歩いた。以前バイク事故で痛めた左脚を引きずりながら、自宅に着いたときは深夜3時を過ぎていたという。
「あの日はほんとに情けなかった。今思い出しても泣けてきます」
話はそれるが、Timeeのような単発バイトアプリは、ほかにも「マッハバイト」「バイトル」「シェアフル」「ショットワークス」など数多くある。それぞれが「スキマ時間を利用」「即日払いOK」「面接なし、履歴書なし」などとアピールしている。
学生や副業をしたい人にとってこれらのアプリは、さぞ使い勝手がよいだろう。原則禁止されている日雇い派遣とは違って直接雇用なので、違法性はないことも知っている。ただ貧困の現場を取材していると、こうしたアプリで生計を立てざるを得ない人が増えていることが気になっていた。本人たちの自己責任では片づけられない。容易に“その日暮らし”を選べる仕組み自体に危うさを覚えてしまうのだ。
アプリの利用経験者からは「6時間という約束だったのに1時間で帰された」「集合場所まで行ったら、『もう定員に達したので今日の仕事はない』と言われた」「制服支給と書いてあったのに、買い取りさせられた」といったトラブルもたびたび耳にする。ほとんどが泣き寝入りしており、一般的な非正規雇用労働者以上にその立場は弱いのが現状だ。
一部のアプリは労働者と企業がお互いに評価し合うシステムを売りにしているが、そもそも労働者個人と企業の力関係は対等ではないという“常識”が欠落しているようにもみえる。違法ではないとはいえ、究極の不安定雇用という点では日雇い派遣と変わらないし、「どうせその日限り」と思ってしまえば、人間関係も希薄になりがちなのではないか。
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