[著者プロフィル] Randi Hutter Epstein/医師、作家、ジャーナリスト。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどに寄稿している。米イェール大学講師、同大学医学部のライターを務め、米コロンビア大学ジャーナリズム大学院の非常勤教授でもある。米ニューヨーク在住。
評者の妻が妊娠・出産した時期は、わずかな期間のうちに人間とはこうも変わるものなのかと、はたで見ていて驚きの連続であった。肉体的にはもちろん、味覚や嗅覚、物事の感じ方まで別人のように変わってしまうのだから、人の体とは実に不可解なものだ。
人体自らがつくりだす物質群「ホルモン」
この驚くべき変化をもたらすのが、ホルモンと呼ばれる物質群だ。脳下垂体、甲状腺、副腎皮質などの器官で作り出され、われわれの行動や生命活動をコントロールする。体を成長させる、男女の体の特徴を作る、血糖値を上げるといった作用はもちろん、授乳、睡眠、覚醒、そして安らぎや闘争心といった情動までが、ホルモンによって操縦されている。いわば、人間を人間ならしめている物質群である。
しかしその作用の解明は、一筋縄ではいかない。何しろホルモンは、50メートルプールにスプーン1杯を溶かした程度のわずかな量でも効力を発揮する。ホルモン同士が互いに連携して働く複雑なネットワークを構成していることも、1つのホルモンが一見矛盾した多数の作用を兼ね備えていることもある。ホルモンの人体に対する作用は、科学者たちの理解を拒むかのように込み入っており、今なお解明されていない部分も多いのだ。
英国の生理学者、スターリングとベイリスによってホルモンが発見され、命名されたのは20世紀初頭。本書は、いくつかのホルモンを取り上げ、その歴史を追ってゆく。ホルモンが人体を操るカギを握っていることが判明すると、多くの人々がこれに群がり、翻弄された。本書の主役は、ホルモンの奏でる狂騒曲に踊らされた人々だ。
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