eラーニングとは?
「eラーニングとは、情報技術によるコミュニケーション・ネットワークなどを活用した主体的な学習」です。
今やネットワークを利用した学習方法は多岐にわたります。例えば、オンライン会議ツールによるオンライン授業、YouTubeによる動画学習なども登場していますが、これらはeラーニングに区分されないこともあります。ここでは区分を明確にするために、伝統的なeラーニングの特徴を挙げます。
・時間と場所を問わず学習できる
・繰り返し学習できる
・学習者(児童生徒)の学習状況を管理できる
以降、これらの特徴を持つものを狭義のeラーニングととらえ、そこに焦点を絞って説明します。
eラーニングの提供形態
eラーニングベンダー*1は、次のいずれか、または融合した形でeラーニングを提供しています。
・プラットフォーム提供型
・コンテンツ提供型*2
*1eラーニングを提供する企業や組織
*2ここでのコンテンツとは、テキスト教材、動画教材、テストなどの学習の素材を指します
プラットフォーム提供型
eラーニングベンダーが、LMS(Learning Management System:学習管理システム)を提供する形態です。LMSの代表的な特徴は次のとおりです。
・教師などが制作したコンテンツを登録して利用する
・生徒はPCやスマートデバイスなどの端末上のWebブラウザーまたはアプリにログインして学習する
・教師と生徒間、生徒同士でのコミュニケーションを行うことができる
・利用者は学校や企業などの組織内部に限られることが多い
・大学や企業・官公庁などでの利用が中心だったが、2020年ごろからは小学校・中学校・高等学校でも広まりつつある
コンテンツ提供型
eラーニングベンダーが、コンテンツを提供する形態です。代表的な特徴は次のとおりです。
・個人での利用が多いが、2020年ごろからは小学校・中学校・高校でも広まりつつある
・2020年ごろからは、コンテンツ提供に加え、AI(Artificial Intelligence:人工知能)による学習支援の機能なども提供され始めている
eラーニングの児童・生徒側のメリット・デメリット
児童・生徒側のメリット
時間と場所を問わない学習
PCやスマートデバイスなどの端末とネットワーク環境さえあれば、eラーニングで学習できます。学校だけでなく自宅に加え、通学途中などの隙間時間でも学習できます。
文字以外のコンテンツによる学習
コンテンツには、文字だけでなく、マルチメディア(画像・音声・動画)を利用できます。その結果、文字ベースの教材に比べ、より具体的・直感的な理解につながります。
苦手箇所の復習が容易
同じコンテンツを繰り返し学習できるため、苦手な箇所などを重点的に復習できます。近年では、AIを活用してつまずいた箇所を特定し、学年をまたがって再学習できる仕組みもあります。
生徒側のデメリット
モチベーションの維持が困難
リアルタイムの授業と比べると受動的な学習になりがちで、学習から離脱(ドロップアウト)してしまうことも多いです。
実践の場を提供することが困難
実技や実習など、実践が求められる技能については、eラーニングだけでは習得が難しいことがあります。
これらのデメリットへの対策として、eラーニングと対面授業を組み合わせたハイブリッド型の学習形態をデザインするなどの工夫が挙げられます。
eラーニングの教師側のメリット・デメリット
教師側のメリット
教室以外で学習機会を提供
上述の「時間と場所を問わず学習できる」ことは、教師にとってもメリットになります。この特徴により、長期欠席者や休校下における自宅待機者に対しても学びを提供できます。
ペーパーレス化
コンテンツは電子媒体であるため、紙への印刷が不要です。そのため、印刷・配布・回収の手間が省けるほか、印刷費の削減や環境への配慮にもつながります。
学習状況を管理
生徒の学習履歴やテスト結果、課題の提出状況などを管理できます。手作業で入力する手間が省けることに加え、生徒の学習状況に合わせたきめ細かな対応につながります。
教師側のデメリット
リアルタイム情報の欠如
生徒が教室以外で学習する場合、リアルタイムのやり取りが少なくなりがちです。生徒の表情や口調などから得られる情報が欠如するため、生徒の心情などを汲み取ることが難しくなります。
新たなスキル習得の必要性
従来と異なる学習形態となるため、eラーニングを活用するためのスキルが求められます。
プラットフォーム提供型では、LMSの仕様を知り、それに合わせたコンテンツ制作や管理方法を習得する必要があります。
コンテンツ提供型のeラーニングを教室で利用する場合、教師にはティーチングよりもコーチングやファシリテーションのスキルを求められがちです。
eラーニングのこれまでの歴史と潮流
eラーニングのこれまで
eラーニングは2000年代前半から国内で知られるようになり、PCの普及と通信技術の発展とともに進化してきました。とくに、インターネットで普及した技術が取り入れられています。
コンテンツ
インターネットで扱われる媒体と同じように、コンテンツも動きのあるものに推移しています。かつては静止画のいわば紙芝居だけだったものに、音声が加わり、さらに現在は動画が主流となっています。また、生徒の操作に合わせて反応する動的コンテンツも、より表現豊かなものになっています。
制作の視点でも、一般人によるコンテンツ制作であるUCC(User Created Content)が普及しており、スライドなどから簡単にコンテンツを制作しやすくなっています。
コミュニケーション
かつては掲示板が主流でしたが、しだいにチャットによる議論や、いわゆる「グッドボタン」による生徒のリアクション取得など、コミュニケーションの幅が広がっています。
学習ログ
保存できるデータ容量の増加に伴い、学習の状況をより細かく取得できるようになってきています。例えば、従来の学習の進捗に加え、動画の再生・停止・早送りなどといった児童生徒の操作も保存できることなどが挙げられます。このような学習ログを分析し、ドロップアウトの兆候の把握や、コンテンツ改善などに活用する動きもあります。
eラーニングの種類と市場規模
プラットフォーム提供型
プラットフォーム提供型はこれまでは企業・大学向けが中心でしたが、小学校から高校向けのものも普及しつつあります。クラスを起点に管理やコミュニケーションを取りやすく、小学校・中学校・高校に適用しやすくなっている点が特徴的です。
コンテンツ提供型
コンテンツ提供型は内容の進化・多様化が目覚ましく、生徒向け、社会人向けの双方でさまざまなサービスが提供されています。
児童・生徒向けには、個別最適な学びを支援するサービスが普及し始めており、個人だけでなく学校でも利用されつつあります。学習指導要領に合わせて、アニメーションや予備校の有名講師による授業が学習できます。学年をまたいで学習できたり、つまずきがある箇所をAIで特定・復習を促したりと、従来のコンテンツに付加価値が提供されている点が特徴的です。
社会人向けには、講座を提供・受講するマーケットを提供するサービス、プログラミング言語の習得を支援するサービス、VR(Virtual Reality:仮想現実)による没入型学習など、さまざまなサービスが提供されています。個人や企業を対象にしているものが多いですが、今後は同様のサービスが学校でも使われることもあるかもしれません。
eラーニングの市場規模
eラーニング市場規模は年々拡大し、コロナ禍でさらに需要が高まりました。
2020年度の国内eラーニング市場規模はBtoB、BtoC合わせて約2900億円、前年比22.4%増となる見込みです。
eラーニングは教育機関でどのように活用されているのか
大学
大学では、学内のネットワークやインターネット環境の整備により、2000年代にはすでにプラットフォーム提供型のeラーニングが普及していました。eラーニングを起点とした通信教育により学位を取得できる学科などが創設されることもありました。
2010年ごろからは、MOOC(Massive Open Online Course:大規模公開オンライン講座)も普及し始め、海外を中心として大学の講義内容を無償で公開している学校もあります。
小学校・中学校・高校
文部科学省によるGIGAスクール構想、経済産業省による未来の教室により、小学校から高校においても、PC・スマートデバイスやネットワークを活用した学びが推進されています。これまでは電子黒板やタブレット端末といったハードウェアの活用が目立っていましたが、2020年ごろからは学習を支援するさまざまなツール(ソフトウェア)の活用が進んでいます。
とくに、学校向けのプラットフォーム提供型のeラーニングや、個別最適な学びを支援するコンテンツ提供型のeラーニングの活用が広がりつつあります。
学校向けのプラットフォーム提供型eラーニングは、企業・大学向けと比べると、教師と児童・生徒とのコミュニケーションも取りやすい点が特徴的です。そのため、ホームルームや授業のほか、部活動や委員会といった場面でも活用されています。
もちろん、LMSの基本となる、情報伝達や資料配布、提出課題やテストの管理といった機能は備えています。
コロナ禍から、LMSやYouTubeを活用して、生徒に動画学習の機会を提供するケースが増えてきています。
コンテンツ提供型のeラーニングは、とくに個別最適な学びを支援するものとして注目を浴びつつあります。学習指導要領に沿った内容で、生徒の理解度に合わせて学年をまたいで学習できるため、学習面での浮きこぼれや落ちこぼれを解消することに役立っています。
教室でも生徒がタブレット端末で学習し、教師は「教える」から「支援する」役割にシフトし、デジタルとアナログを融合して新しい学びを提供し始めているところもあります。
eラーニングコンテンツを自作する
プラットフォーム提供型のeラーニングにおいては、教師などがコンテンツを制作することが求められます。具体的な手順はLMSの仕様によっても異なるため、ここでは共通する観点や流れを紹介します。
教材制作
観点
eラーニングでは、リアルタイムの授業と比べ、児童・生徒の集中力が続かない傾向にあります。そのため、1つの教材を短くすることが重要です。指導案も加味しながら、最長でも20〜30分程度に収めることを目安とします。ちなみに、マイクロラーニングという考え方では、1つの教材を5〜10分程度に収める傾向にあります。教材の時間にとらわれる必要はありませんが、短くしすぎても児童・生徒側は問題ないと認識しておくとよいでしょう。
また、初めは完璧なものを目指そうとせず、まず制作・提供し始めることも重要です。例えば、言い間違いをするたびに動画を撮り直したり、スライドや動画に凝った編集をしすぎたりしないことなどが挙げられます。
制作方法
教材には、スライド(静止画)、動画、動的コンテンツといった種類があります。動的コンテンツにおいては、プログラミングなどのスキルも求められやすいため、ここでは誰にでも制作しやすいスライドと動画を取り上げます。
スライドは、Microsoft Officeソフトのプレゼンテーションツールで制作します。プレゼンテーションツールには録音機能が備わっているものも多いため、音声入りのスライドを提供できます。
動画は、背景に映すものによって準備環境が異なります。
また、撮影した動画を編集する場合、動画編集ソフトウェアが必要となります。動画編集ソフトウェアは、WindowsやmacOSに標準搭載されているもののほか、無償・有償のソフトウェアも利用できます。標準搭載されているソフトウェアは機能がシンプルなため、まずは標準搭載のソフトウェアを試してみるとよいでしょう。
テスト制作
基本的には、プリントのテストを制作するのと同様に考えます。
LMSでは自動採点の仕組みが備わっているため、テストの設問も選択式にすれば自動採点できます。記述式の設問を出す場合、テストとは別に課題として提出を求めるのもよいでしょう。
まとめ
記載してきたとおり、近年eラーニングは普及が進み、提供されているコンテンツが多い一方で自作も可能です。生徒側・教師側のメリットとデメリットをよく理解し、教育の現場で活用していきましょう。
2009年、株式会社富士通ラーニングメディアに入社。子ども向けプログラミングスクールの企画、教材開発、講師を務める。2020年、株式会社まなび梯を設立。プログラミングを含めた子ども向け学習イベントを定期開催するほか、プログラミングスクールのアドバイザーとしても活動中
(写真:Getty Images)