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『何もしない』 注意経済の奴隷となった現代人に覚醒を促す一冊

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何もしない(ジェニー・オデル 著/竹内要江 訳/早川書房/2530円/330ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
[Profile] Jenny Odell アーティスト・作家。米スタンフォード大学講師。バードウォッチング、スクリーンショットの収集、おかしな電子商取引の解析など「観察」を伴う作品を多く発表。米国内のほか、パリ、中国、ドバイなどでも展示が行われている。オークランド在住。

「誰かを論破できる人ってカッコいいと思うんですよ」。若い友人の口から飛び出した言葉に驚いた。彼が憧れるのは、「論破王」と呼ばれる著名人だという。SNS(交流サイト)やテレビのワイドショーで、次々に相手を言い負かす姿がたまらないらしい。そんな話を聞いて、面白いと感じる一方、ちょっと考えさせられてしまった。

実は、この著名人流の「論破」が成り立つには、舞台装置が必要だ。ツイッターなら140文字、テレビコメントならわずか数十秒という制限である。そこでは決まった枠組みに最大限の成果を詰め込めた者が評価され、沈黙は敗北と見なされる。つまり「論破王」は、限られたフォーマットに則(のっと)ったある種の芸を繰り広げているにすぎない。

こうした「芸」に長けた著名人の動向などが逐一、情報としてもたらされるのだから現代人は忙しい。のべつまくなしにスマホへ届く通知に反応していれば、あっという間に時間が経ってしまう。

私たちは「注意経済」(アテンションエコノミー)の網で覆われた社会に生きている。「人々の注意」というリソースから、経済的利益を生むシステム。本書はそんな注意経済の網の目からいかに逃れるかについて書かれた一冊だ。読書家として知られるバラク・オバマ元米国大統領が2019年の「お気に入りの本」に挙げたことで、米国では一躍ベストセラーとなった。

『何もしない』というタイトルからは、多くの人が「デジタルデトックス」をイメージするかもしれない。だが、著者はデジタルデトックスには批判的である。それは、一定期間デジタル機器から離れることで、再び生産性の高い状態となって仕事に戻るための方法であり、注意経済を補完するものでしかない。

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