私たちは重要なニュースを毎年何万と見落としている。そのようにして見過ごされてきた出来事の中で今年最重要のものが、仏リヨンで行われた10月の会議だ。この場で政府、企業、慈善団体の代表は「グローバルファンド」に140億ドル(約1.5兆円)の拠出を誓約した。
このグローバルファンドは、正式名称を「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」という。設立は2002年。ちょうどエイズ禍がピークに達し、アフリカをズタズタにしていた頃だ。当時、国連ではアナン事務総長が「ミレニアム開発目標」を掲げ、貧困や疾病の削減を世界に訴えていた。こうした目標実現に向けて立ち上げられたのが、当初「世界基金」と略称されたこのファンドである。
ファンドはそれまでの国連基金と違い、官民協力が軸となっている。ビル&メリンダ・ゲイツ財団のような慈善組織をも巻き込んだ新しいタイプの多国間枠組みだ。
創設以来、ファンドは低所得国の3大死因であるエイズ、結核、マラリア対策のあり方を大きく変えてきた。資金を1カ所に集めることで「規模の経済」を達成し、マラリア対策の蚊帳や抗HIV薬などのコストを引き下げ、大規模な物資供給網を確立した。その結果、エイズ死者数はピーク時から半減、マラリアによる死者数も00年比でほぼ半分に減った。
そのファンドが再び資金を獲得できた意味は重い。何よりこれで事業継続が可能となり、1600万人もの命が救えるのだ。今回の増資でエイズ、結核、マラリアによる死亡率は23年までにさらに半減できるとファンドは予想する。
だが、このニュースには別の意味でも重みがある。世界が多国間協力の大切さに気づき、軌道修正を図ることができるかどうか、私たちが歴史の分岐点に立たされていることを示す出来事だからだ。
この記事は有料会員限定です
残り 666文字
