今年に入ってからの金融市場の動きでいちばんの驚きは、意外に円高が進んでいないことではないだろうか。昨年末の1ドル=110円からは多少円高だが、購買力平価が90円台後半だとすると、現在もかなりの円安水準といえる。米国が2回も利下げをすれば100円割れもありうると予想していた人は、(筆者自身を含め)少なくなかったと思う。以下は、なぜ円高が進まないのかに関する現時点での筆者の仮説だ。
30年余り前、為替レートの決定理論として、国内では日本銀行のエコノミストだった深尾光洋氏(後に慶応大学教授、現在は武蔵野大学教授)が開発した「深尾モデル」が有名だった。そこでは、為替レートは①購買力平価、②内外金利差、③過去から現在までの累積経常収支、という3つの要因で決まることになっていた。
ここで累積経常収支が説明要因になるのは、経常黒字の結果、邦人が外貨資産を蓄えれば為替リスクが発生し、そのリスクプレミアム分だけ円高要因になるからである。さらに深尾モデルでは、累積経常収支から将来円に転換される予定のない対外直接投資分を差し引くべきだとされていた。
そこで昨年度の日本の国際収支をみると、経常黒字は19.2兆円(名目GDP〈国内総生産〉の3.5%)と依然かなりの大きさだったが、貿易収支はほぼトントン(わずか0.7兆円の黒字)であり、経常黒字の総額以上に海外投資からの利益である投資収益収支(21.1兆円)で稼ぐ姿になっている。今や日本は貿易立国というより、かつての大英帝国のような投資立国になっているのだ。
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