欧州中央銀行(ECB)が金融緩和を決めた。「2%弱」のインフレ目標がいまだに達成できていないことを考えれば、確かに緩和は十分とはいえなかった。ただ、このタイミングで量的緩和を再開するのは間違っている。
まず、ECBが量的緩和策を導入した2015年3月に比べれば、ユーロ圏経済は改善している。企業の景況感を示す総合購買担当者景気指数(PMI)は当時と比べて悪くない。インフレ率も総合指数とエネルギー・食品を除くコア指数ともに当時の数字を上回っている。短期・長期金利に加え、銀行の貸出金利も大きく下がり、与信も伸びた。つまり、データを見る限り、量的緩和が必要な状況ではない。
なるほど、トランプ米大統領の仕掛けた貿易戦争がユーロ圏の製造業に打撃となっているのは事実だ。中でもドイツはその筆頭といえよう。ただ、関税引き上げに金融政策で対処できるかといえば、それは難しい。金融緩和による通貨安で輸出競争力を高め、相手国を痛めつける──。他国ならこのような近隣窮乏化策に訴えることもできるかもしれないが、ECBが通貨安目的で金融緩和に動けば周囲が黙っていないだろう。そもそもECBは為替操作を金融政策の目標としていない。
もちろん、輸出減速の影響がユーロ圏全域に広がっていく状況なら、金融政策が需要底上げに役立つ可能性はある。ただ、製造業の業況悪化がこれから全セクターに波及するのかどうかは、まだはっきりしない。それどころか、2020年の米大統領選挙が近づく中、米中貿易戦争が沈静化する可能性はむしろ日増しに高まっている。経済が悪化すれば、再選を目指すトランプ氏に不利となるからだ。
そう考えると、ECBが緩和再開に踏み切った背景には別の要因があったのかもしれない。2%弱のインフレ目標を達成できずにいることが影響した可能性はある。ただ、目標未達は今に始まった問題ではない。このタイミングでなぜ大規模な策を講じなければならなくなったのか。そこに明確な根拠を見いだすのは難しい。
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