たった一度放送されただけで、世界を変えたテレビCMがある。「デイジー」と呼ばれる60秒の映像だ。1964年の米国大統領選挙で、現職だったジョンソン大統領の陣営により制作され、歴史的な大勝の一因となった。
時はベトナム戦争のさなか。同年8月には、北ベトナム軍が米海軍の戦艦に魚雷を発射するトンキン湾事件が発生していた。紛争激化の兆しといえる。タカ派と目される対立候補のゴールドウォーター上院議員は軍事介入の拡大を訴え、核兵器の使用にも積極的な姿勢を示していた。対するジョンソン大統領は、前年に暗殺されたケネディ大統領のリベラル政策を引き継ぎ、貧困の撲滅や公民権の拡大を公約に掲げていた。これが「デイジー」の背景だ。
CMは、幼い少女が牧草地でデイジー(ヒナギク)の花びらを数えるシーンから始まる。1、2、3と数える少女は、5の次に7へと飛び、6、6、と2回繰り返した後に、危なっかしく8、9と進むと、そこでついにつっかえてしまう。すると突然、毅然とした男性の声が、9、9、という少女の声をかき消す。男声は10、9、と続き、それがカウントダウンだとわかる。少女はハッとして空を仰ぐ。シーンはフリーズし、カメラは冷たく続くカウントダウンに合わせ、少女の黒目にクローズアップしていく。カウントがゼロになると同時に画面は少女の黒目で覆い尽くされ暗転。爆発音が鳴り響き、閃光と黒い雲が画面を覆う。
ジョンソン大統領本人のナレーションが続く。前のパートで作られた平和と戦争の対比を際立たせるような、厳かで詩的な文章だ。子どもたちが生きられる世界か、暗闇の世界か。愛し合うか、死ぬか。どちらかを選ばなくてはいけない。そして映像はこう締めくくられる。11月3日はジョンソン大統領に投票しよう。ずっと家にいる代償はあまりに大きい。
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