北朝鮮の「幽霊船」が日本海沿岸に頻繁に流れ着くようになった。主に乗組員が逃れた後の木造船だが、遺体や餓死寸前の漁師が乗っていることもある。
漂着が増えた理由としては、北朝鮮政府の関与が取り沙汰されることが多い。曰(いわ)く、外貨を稼ぎたい政府が漁獲量拡大のため、漁師に遠出を命じているというのだ。
しかし、現実はもっと複雑だ。北朝鮮は確かに全体主義国家だが、ここでは政府の関与は二次的なものにすぎない。むしろ政府が導入を進めた市場原理のほうが、直接の引き金になっている。
北朝鮮では漁業の民営化が進み、漁船が急増した。数カ月前に東部沿岸の元山(ウォンサン)を出港する漁船の数を実際に数えたことがあるが、驚くべき光景だった。あんなに多くの船が海に浮かんでいるのを目にしたのは初めてだ。衛星写真を見ても、北朝鮮の港が木造船であふれかえっているのがすぐにわかる。
金正恩(キムジョンウン)委員長の治世で北朝鮮の経済は大きく改善し、漁船を手に入れるのに必要な1000ドルほどの資金を工面できる国民も増えた。現代の北朝鮮は以前ほど貧しくはなく、蓄えを有望な事業に投資し、稼ぎを増やそうと考える人が増えても何ら不思議はない。
漁業は危険できつい仕事だが、確かに儲かる。実際、海沿いの小さな町で、役人とのコネを持たない家に育った人間がまずまず稼げる仕事に就こうと思ったら、漁業関係以外の選択肢はあまりない。
しかし漁船が急増したことで競争は激化している。北朝鮮の漁師がこんな冗談を言っていた。「近頃は魚の数より漁師のほうが多い」。あながち笑い話とも言えない。近海では漁獲量が確保できないので、日本海中央部にある大和堆(やまとたい)のような好漁場に向けて、貧相な船でますます遠出しなければならなくなっているからだ。
この記事は会員限定です
残り 762文字
