2月に突如起こった世界規模での株価急落の震源は、1月の雇用統計によって米国で生じた賃金インフレ予想と金融引き締め加速懸念だとされた。しかし2月の雇用統計で賃金上昇率の落ち着きが確認された後も、市場は安定を取り戻していない。それは、市場の動揺をもたらしたのが目先の賃金インフレ懸念ではなく、より根深い、トランプ政権の経済政策に対する強い不信感だったためではないか。
トランプ政権は昨年末に今後10年間で1.5兆ドルという過去最大規模の減税策を決定した。さらに今年に入ってからは、巨額のインフラ投資計画を示した。
米国経済が良好で需給が徐々に逼迫する今のタイミングで、財政拡張策を重ねていけば、供給制約から経済活動にはむしろ悪影響が及び、やや長い目で見たインフレリスクを高める。また、財政赤字の拡大から金利上昇が促される。
一方、こうした財政拡張策は輸入を増加させ、米国の貿易赤字をさらに拡大させる。トランプ政権は貿易赤字の拡大をとりわけ問題視しながら、自らそのリスクを高めようとしているのである。その結果、米国では「双子の赤字」が着実に深刻化している。これはドルの信認を損ね、海外からの資金流入を滞らせ、ドル安や米国金利の上昇、株価下落をもたらす。
経済政策への不信感から金融市場が不安定になると、それが一種の警鐘となり、トランプ政権の政策姿勢をよりよい方向に修正させていくことも考えられなくはない。
金融市場の力が、そうした形で米国政府の政策を大きく動かした例として記憶に残るのが、1987年のブラックマンデーである。米国での長期金利の上昇が住宅ローンの利払い負担を高め、株価下落が個人資産を目減りさせてしまった。だが、その背景には「双子の赤字」問題があるという認識が米国民の間にしだいに広がり、それが、レーガン政権2期目の経済政策を大きく転換させ、財政健全化への道を開いたのである。その結果、得られた長期金利の低位安定などが、90年代の米国経済の繁栄をもたらした面もあろう。
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