2016年は、英米の国民が自由貿易を拒絶した年として歴史に刻まれることになりそうである。共に自由貿易の旗振り役を務めてきた国だけに、民意の表明は重く受け止めなければならない。
米国大統領選挙の意外な投票行動自体については、すでに解釈も出尽くした感がある。その中で私が的を射ていると感じたのは、ウォールストリート・ジャーナルが掲載したアーサー・ブルックス氏の心理説である。サイレントマジョリティを突き動かしたのは、移民が傷つけた自尊心だというのである。
もともと人間は異質な人々を排除したがる性癖を持ち合わせている。古くはシェークスピアの『ヴェニスの商人』や『オセロ』で取り上げた問題であり、同じ日本人同士でも、よそ者を排斥する土地柄が話題に上ることは少なくない。ただし、米国のKKK(クー・クラックス・クラン)やドイツのネオナチを見ればわかるように、短兵急な移民排斥運動がマジョリティの支持を得た例はない。ここに来て表面化した現象は、もっと複雑である。
米国のブルーカラー職場には、先任権という概念が強固にある。これは、職域内でポジションが空くたびに、勤続年数の最も長い人から順に応募する権利を持つという取り決めのことで、無用なもめ事を未然に防ぐ一種の公平原理といってよかろう。意外な投票行動を理解するカギは、ここにあるようだ。
先任権の考え方は、実は米国の社会構造を見事に写し取っている。米国には、北欧、南欧、東欧、中南米、アジアから順に移民が押し寄せてきて、後から来た人種が社会階層の底辺に組み込まれることにより、先住階層を下から押し上げてきた。事実、アングロサクソンでもプロテスタントでもない初めての大統領、ジョン・F・ケネディは、北ヨーロッパ系ながらケルト系カトリックのため、移民第4世代にしてようやく頂点に上り詰めた。先住者を守る壁の厚さは推して知るべしであろう。
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