やぼ用が一段落したので、翔ぶがごとく書店へ走った。目的のコーナーはミステリーの棚だ。ウソォ!と叫びたくなるほど、新刊が平積みされていた。しかも舌なめずりしたいごひいき作家の本が、群を成して平積みになっている。幼児をおもちゃ屋に連れていくと、うれしさのあまりおもらしをするが、あれと似たような気分になる。下腹がうずく。加山雄三さんのセリフが口に出る。「ボカア(ボクハ)シアワセダナア!」。
片っ端から手に取る。ジョン・ル・カレ、ピエール・ルメートル、マイクル・コナリー、ヘニング・マンケル。ル・カレの厚い文庫は、「岩波現代文庫」になっている。岩波がル・カレを?と思ったが、そんなことはどうでもいい。支払いコーナーに並んだ。カバーは? いりません。袋は? 入れてください。仕事場に戻って袋から出した作品群をいとおしげに並べて悦に入る。
(ベッド脇に積んである作品のどれと替えるか)と思案する。楽しいひとときだ。ベッドの脇には数十冊のミステリーが積んである。夜ごと読む。読み方が正攻法ではない。1冊読み終えたら次の本、というふうには読まない。5冊くらいを同時進行させる。(頭がごちゃごちゃになるようなら、おまえはバカだ)と自分に言い聞かせている。ボケ防止の一つの方法でもある。
どんな新刊が出ても、絶対にベッド脇から除かれないミステリーがある。R・D・ウィングフィールドの「フロスト」シリーズだ。主人公は英国の地方都市デントンの警察署に勤めるジャック・フロスト警部だ。巨体で服装にお構いなく、女性の前でも下ネタ話をはばからずにする。聞くに堪えない卑語も連発する。早のみ込みと先の見通しの悪さにかけては、他の追随を許さない。そのためいつも部下や協力者たちをひどい目に遭わせる。しかしひどい目に遭わされた連中は不思議とフロストを憎まない。憎むのはフロストを早くクビにするか、他署に転出させようと策す署長とその取り巻きだけだ。
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