大阪の経営コンサルティング会社が創立45周年を迎え、記念式典を行った。私に講演を依頼してきた。指定された演題は「仕事に生かす粋」である。
私の生家は小さな町工場で親父もお袋も休みなく仕事をしていた。私も小学校の頃から手伝わされ、プレス、ミーリング、旋盤などの機械を扱わされた。しかしこの方面への素質がなく、私がかかわった製品はおおむねオシャカ(失敗作)だった。親父は業を煮やし、もう手伝うなと怒った。
お袋は50銭(当時としては破格の小遣い)をくれ、「活動(映画)でも行っといで」と工場から私を追い払った。私は映画館に行かず寄席に行った。客席で仕込んだ落語を学芸会で独演し、修学旅行の夜汽車の中でも“釜泥(かまどろ)”などを披露した。引率の先生はいやな顔をしたが、一般の乗客からは拍手をもらった。
だからこの演題にもひるみはしなかった。職場でいちばんポピュラーに使えるのは“厩(うまや)火事”だ。
のらりくらりとして髪結いの女房に寄生している亭主が、あるとき大事にしていた皿を女房に割られる。このとき亭主が女房に告げたのは「おめえ、手は大丈夫か」というセリフだ。
女房は感激する。「おまえさん、皿よりもあたしのことを心配してくれたのかい?」と涙ぐむ。亭主は「そりゃそうよ。おめえにケガされたんじゃ、明日から遊んで食えねえ」と応ずる。このオチ(サゲ)を利用する。
今は仕事場でも“お茶くみ”はなくなり、自動式になった。昔は女子社員がサービスしてくれた。私は凝った茶碗を置いていた。その茶碗を落っことされ割られた。でも私は、「ケガはしなかったかい」と聞いた。大事な茶碗を割ってしかられるとおびえていた女子社員はホッとする。昔の話である。
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