1年ぶりにタイに行ってきた。まず訪れたのは、バンコクのエラワン廟。8月の爆発事件で20人の命が奪われた惨劇の現場である。
以前より数は少ないが、一心に祈りをささげる人々がいた。エラワン廟の霊験はタイ随一とされる。が、今回、尊い梵天のお顔も損傷した。梵天はわが身の災厄さえ振り払えなかった。その「現実」も人々の祈りを妨げることはない。信じるというのは、現実を超越することなのである。
ふと日銀の黒田総裁を思ったりする。総裁も祈りの人だ。8月の消費者物価は前年比0.1%下落したが、「基調は着実に改善している」。なるほど原油下落という伏兵がいた。が、エネルギーを除いてもやっと1・1%のプラス。
たしか、当初のもくろみでは、昨年度中に3.4%の上昇を実現しているはずだった。目の前の現実は、「異次元」「バズーカ砲」という余りに異様な金融政策の、余りに貧弱な効果である。
悪いことに、米国が利上げを見送る中、巷間、「第3のバズーカを」という声が高まっている。黒田総裁も「必要と判断すれば、躊躇なく調整を行っていく」と答えている。だが、さほど効かないことが実証されてしまった政策をもう一段拡大して、何がどうなるのか。確実なのはただ一つ。対GDP比74%に膨らんだ日銀のバランスシートがさらに膨張するということだ。
戦時中のほうが健全
日銀派のエコノミストたちは言うかもしれない。「それがどうした。日銀は市場を通して国債を買っている。国債を直接引き受けた戦時中とは違う。節度を保持し、市場もきちんと機能している」と。
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