巻頭対談(WEB限定版)
日本のリーダーが世界で戦うために必要なこと 岡田武史(サッカー元日本代表監督)×近藤聡(デロイト トーマツ コンサルティング 代表取締役社長 パートナー)

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

近藤 どう選手たちをその目標へ向けて駆り立てたんでしょうか。

岡田 一つは、選手全員にA4の紙を配って、「一番上にW杯ベスト4と書け、そのためにはどういうチームにならなければいけないか、思うことを書いてくれ」と言ったんです。そしてさらに、「そのなかで自分はどういう役割で役に立てるか、その役割を達成するために、今から自分が何をしなければいけないか、どういう自分になっていかなければいけないか、書いてくれ」と。W杯が終わった後、何人かの選手が、岡田さん、あの時の紙、まだ持っています、壁に張っていましたと言ってきたんですよ。ああ、やっぱりこういうことは大事なんだと実感しました。

近藤 その結果が他国開催W杯で初の決勝トーナメント進出ですね。適切な目標設定の重要性を再認識させられますね。

岡田 それと、チームの目標意識を高めるときには中心選手二人ぐらいを呼んで言うんですよ。どうだ、本気で俺と一緒にやってみないかと。でも、そのかわり、こいつだけはもう絶対外さないと覚悟しなければいけない。代表選手って、選ばれるかどうか、みんな疑心暗鬼なんですよ。でも、こいつとは心中するという覚悟の選手を2人ぐらい呼んで、1人ずつ言うんですよ。全員の前で本気でベスト4を目指してみないかと言っても、みんな顔色を見るんです。なかなか流れてこないんですよ。ところが、その2人が、やってみます、岡田さん、一緒にやりましょうと言ったら、これは不思議なもので、ぱあっとついてくるんですよ。だから、そういうのはものすごく大事なことだと思うんです。

近藤 その2人の選手はどうやって選ばれたんですか。

岡田 もうこいつにかけてみる価値があるなと思えるかどうかですよ。やっぱり最後は人間性なんです。もちろん代表ですから、技術は必要です。でも、結局、その人間性、信用できるかどうかというところへ行き着いてしまうんです。

遺伝子にスイッチが入る経験をしているか?

近藤 岡田さんのお話をうかがっていると、マネジメントや社会問題について、自分はこう思うという強い哲学や美学みたいなものを感じます。このような姿勢や思考は生まれ持ってのものなのでしょうか。

岡田 いえ、一番のきっかけは最初の代表監督就任だと思います。それまではそんなに強い人間ではありませんでした。カザフスタンでの敗戦後に加茂監督が更迭され、次のウズベキスタン戦で誰かが指揮を執らなければならなかったのですが、最初は1週間で辞めるつもりでした。しかし選手たちが必死に練習している姿を見て、自分だけ逃げるわけにはいけないと、その後も引き受けることにしたのです。

次ページどん底に落ちてスイッチが入る