巻頭対談(WEB限定版)
日本のリーダーが世界で戦うために必要なこと
岡田武史(サッカー元日本代表監督)×近藤聡(デロイト トーマツ コンサルティング 代表取締役社長 パートナー)
プロとして、高い目標を設定しているか?
近藤 選手はプロであり、高いパフォーマンスを求められます。岡田さんは会社勤めの経験もお持ちですが、サッカーのプロフェッショナルとサラリーマンに共通点はありますか。
岡田 サラリーマンも自分の仕事に対しておカネをもらっているという意味で、プロですよね。
サラリーマン時代、僕は発泡ポリエチレンの企画管理をしていたんです。原材料になる発泡ポリエチレンを子会社に納めさせるんですが、これが結構大変なんです。下請会社の社長は僕みたいな若造に命令されるのが嫌で、なかなかひとつ返事で承諾はしてくれない。サッカーの練習が終わって、下請工場へ行って、注文どおりで来ているか尋ねると、「そんなもんできないよ、間に合わないよ」と言われたりする。でもそのときに「いいです、僕が動かします」って自分で動かし始めたら、少しずつほかの人が手伝ってくれ、朝までかかって、軽トラのレンタカーを借りて僕がお客さんのところへ届けたりしたこともあるんですよ。
でも、そんな中でどうすればもっとうまく仕事を進められるんだろうと考え始めて、それが楽しみややりがいになってくるんですね。きれいに納期に間に合ったら、正直「やったあ」なんて思うんです(笑)。
あるとき、その子会社の社長が、「おい、岡田、おまえもな、サッカーばかだと思ったけれども、まあ、頑張っているな」と言ってくれたことがあって、嬉しかったですね。そのとき、サラリーマンもこういう仕事の喜びってあるんだってわかったんです。
僕たちの世界でも、たとえばプロ選手が練習に出てきて、これをこなしたら給料をもらえるというような思考の選手もいるわけです。サラリーマンであろうとサッカー選手であろうと仕事のなかに、喜びや価値を見いだし、「もっとこうしてやろう」という目的意識を持てるかどうかがその後の大きな差になると思います。
近藤 目的意識に関連して、南アフリカW杯の際、目標としてベスト4を掲げられましたが。
岡田 実は何でもよかったんです(笑)。当時、日本代表のレベルは世界トップクラスとは言いがたかった。当然、選手のレベルを引き上げる必要がありますが、代表というのはチームで練習できる時間は本当に限られていて、個々のレベルアップは日頃各自でやってもらわざるをえない。そういう意味で、何でもいいけれど選手を奮い立たせる目標が必要でした。優勝というとリアリティを持てないかもしれませんが、日韓W杯の際に韓国代表が達成したベスト4という目標なら、「よし」と思ってくれるのではないかと考えました。