「独立するなら、体が動く50歳前がいいでしょうね。それは自分の実感としてあります」
「本当に楽しくて、新しいものをワクワクしながら作っています」
独立後の仕事には、ホンダで培った姿勢も生きている。入社当初、研究者の感覚で論文を書いていると、「ここは大学じゃないんだぞ」と言われた。まず結論を伝えること。悩んでわからなければ、専門家に電話して聞くこと。速さと結果を求められる環境で学んだことだった。
「何でも一番を目指そう、最速でやろうという教えがあった。それをチーズの世界でもかなえられたのは、本当によかったなと思います」
「自分は会社で出世する大通りにはいない」と思いながらも、「仕事は楽しいから、それでもいい」という気持ちで、手を抜かずに頑張ってきた。その一方で、仕事以外にも楽しみを見つけた。それが、結果として次の仕事につながった。だからといって、会社員全員に起業を勧めるわけではない。趣味を突き詰めること自体が、息抜きになる場合もあると考えている。
「今の仕事以外のインプットが非常に重要なんじゃないかな。違うコミュニティに入ることが、一番重要かなと思っています」
自分には新しい場へ行く怖さはなかったが、不安を感じる人がいることも理解する。まったく無縁の場所へいきなり飛び込むのが難しければ、少し関連する分野から広げていく。自分の専門について話し、相手の知らないことを伝えられる場なら、入りやすいのではないかという。
起業を考える人には、まず「何のためにやるのか」を考えてほしいとも話す。ビジネススクールで学ぶ人と接するなかで、起業そのものが目的になっていると感じることもあるからだ。
「最初は空き時間で小さくやってみる。ものづくりなら試作して、周りの人に使ってもらう。自分も妻にチーズを試食してもらいました。思いと技術を温め続けて、『これならいける』という瞬間が来たときに、一気にやる。いきなり行かないほうがいいと思います」
営業や経営を自分で経験すれば、本業に生かせる知識も得られる。独立を決める前に、顧客を見つけておくことも大切だという。是本さん自身、顧客見込みとなる人にチーズの試食をお願いし、人間関係を築いていたことが独立後の支えになった。
今後は、会社の規模を大きくするよりも、後進の指導に力を入れたいと考えている。工房に学べる場を併設し、培ってきたことを若い職人に伝える構想もある。
技術者として働いた年月も、経営を学んだ時間も、人とのつながりも、今の仕事につながっている。別の業界を経験してから入った人には、その人ならではのチーズ作りや経営ができる。是本さんは、そんな異なる蓄積を持つことの良さを、チーズになぞらえて話した。
「複雑さを持った、濃厚なチーズみたいな感じで。年を重ねて起業すると、そういうものが出てくるのかなと思います」
取材の数日前には、ボスケソ・チーズラボのチーズが、国内最大級のチーズコンテスト「Japan Cheese Awards 2026」のソフト/白カビ部門で、金賞および最優秀部門賞を受賞して日本一になり、5大会連続で同賞を受賞するという快挙を成し遂げた。その際の笑顔が、独立後の充実ぶりを物語っている。


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