もっとも、こうした提案には、「人文知に投資していたら、市場競争に負けるのではないか」という反応もあるという。
深井氏も、存続が危ぶまれる企業には目の前の競争を優先せざるを得ない事情があると認める。一方、利益を出しながら投資先を模索している企業には、社会の未来を見据えた投資を、自社の競争力につなげていく道を考えてほしいと呼びかける。
その一つが、人材に選ばれる企業になることだ。深井氏は、報酬に加え、仕事の意味や社会への貢献を重視する人材に着目している。企業がどんな未来を見据え、何を実現しようとしているのか。その意思を示し、行動することが、そうした人材を引きつける可能性があると考えている。
「日本の経営者に問いたいのは、これからどうやってグローバルに戦っていくつもりなのか、ということです」
例えば、日本企業がAI倫理を深く考え、その実践を主導する。あるいは、戦争が起こる仕組みなども踏まえ、将来の社会のために企業が資金をどう使うべきかを考える。
そのような取り組みを進め、社会に意義のある仕事を求める世界の人材に選ばれる企業を目指す。深井氏が示しているのは、そうした方向を自ら選び、実現しようとする意思だ。人文知への投資を通じて、日本企業がどのような強みを築いていけるのか。その可能性を追求したいと考えている。
経営につなぎ、学術活動を支える
では、人文知に投資するとは、具体的に何をすることなのか。
出発点は、経営者や意思決定者が「社会に対する解像度」を高めることだ。社会の仕組みや変化への理解を深め、自社はどんな社会をつくりたいのか、そのために資金や人材をどう配分するのかを考える。人文知を、実際の経営判断につなぐ取り組みである。
具体策の一つとして勧めるのが、人文知と経営をつなぐ社内部門づくりだ。専門性を持つ人材が知見を経営者に届け、意思決定に生かす。深井氏は、エンジニアと経営者を橋渡しする情報システム部門に近い役割だと説明する。すでにCOTENの支援を受けたり、独自に取り組んだりしている企業もあるという。
ただし、専門部署の設置が必須というわけではない。社会科学者や人文学者に助言を求め、顧問に迎えるなど、アカデミアとつながり、企業自身が学ぶ方法もある。
その際に重視しているのが、研究者や学術活動にも資金が還元される仕組みだ。専門家の知見に対して、その活動を支えられるだけの報酬を支払うことも求めている。
すべての研究が経営に役立つ必要はない。経営との直接的な接点が薄い研究にも資金が回り、多様な学術活動が続けられる仕組みが必要だという。研究の価値を、自社への直接的な効果だけで測らない姿勢も問われる。
社会を理解し、自社がつくりたい未来を考え、資源の配分を変えていく。同時に、その理解を支える学術活動にも資金を回す。漠然とした危機感を、企業自身の意思と行動へつなげることを、COTENは呼びかけている。


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