加えて巷間ささやかれているように、直前に首脳会談を行ったばかりの相手に面子をつぶされた習近平国家主席個人の怒りが原動力だとすれば、国家も強硬路線を能動的には望んでいなかったことになる。末端の行動が落としどころを見据えた合理的なものになりにくいことも納得できる。
結果として目立ったのは、中国の劉勁松・アジア局長(当時)が日本の外務省幹部との面会の際にポケットに手を入れたまま見送っていた映像のような、日本を格下に扱うアングルだ。自らの強さ(または相手の弱さ)のアピールは、第三者の支持を求めるには逆効果だし、相手国からも反発されるだけだ。
それでもこうしたナラティブを選んでしまうのは、立場が下のものに対しては何をしても構わないという国内によく見られる粗暴な弱肉強食の論理に加え、様々な理由により中国にとっての定石が使いにくく、他に材料がない(が怒っていることは伝えたい)という状況の影響もあったことだろう。
リソース不足の日本語向け発信
日本向けのメッセージングの失敗という視点では、官製メディアの組織の観点から補助線を引くこともできる。現在日本向け発信を行うのは、おもに国際テレビ放送局のCGTN(China Global Television Network、旧CCTV-9)だ。だがCGTNの放送言語には日本語は含まれず、日本語コンテンツはウェブサイトとSNS発信のみだ。これらは旧CRI(中国国際放送)日本語部のスタッフによって製作されてきたものが引き継がれており、18年の組織改編後を経てCRIがCCTVなどと並んで中央広播電視総台(China Media Group、CMG)傘下に統合されたことによる変化となっている。
中国の対外ラジオ放送はその起源のころから日本軍への対抗発信の役割を担っており、英語よりも5年も早く日本人を起用した日本語放送が始まっている。そうした歴史的経緯に加えCCTVやCGTNには日本語放送がなく、したがってアナウンサーや日本語ライターも少ないことから、今でも対日発信は旧CRI組(現CMGアフリカ・アジアセンター日本語部)が主力を担う。
しかし、広告などによって大幅に底上げされているといわれる英語に比べ、ほぼすべての動画が2桁しか再生されていない日本語のYouTubeチャンネルは再生数だけでなく独自制作コンテンツの質も目を覆わんばかり、予算やリソースがまともに与えられていないことがわかる。悲しいことだが、ラジオ部門というメディアの存在感の希薄化の影響が、そこに紐づく日本語コンテンツをも直撃しているということだろう。
ただし、中国の対外発信は失敗ばかりと侮るわけにもいかない。2023年の福島第一原発のALPS処理水放出をめぐって行われた情報発信は比較的成功だったと評価できる。ポイントは「キャッチーな言葉によるレッテリング」と、「周辺国の巻き込み」だ。中国政府は処理水を直感的に悪いものだとイメージが湧く「核汚染水」と命名し、日本産水産物の全面禁輸措置と連動させたうえで人類共通の海洋環境保護および食の安全という普遍的公共財の毀損へとフレーミングした対外・対内宣伝を展開した。


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