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高市首相の「台湾有事」答弁から1年…「新型軍国主義」を言い出した中国の対日プロパガンダが国内外で空回りした深層

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高市首相による「台湾有事」答弁からまもなく1年、日中関係は停滞が続く(写真:Bloomberg)
  • 林毅 ライター・研究者
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第三国の支持を取り付けるという側面からみても、韓国最大野党「共に民主党」の李在明代表(現大統領)が放出を「第2の太平洋戦争」と呼んで大規模なデモやハンガーストライキを主導してプレッシャーを掛けた結果、当時の尹錫悦政権が水産物輸入禁止措置の継続を余儀なくされた。太平洋諸島フォーラム(PIF)加盟国においても過去の核実験被害の記憶と重なって懸念が表明され、ロシアも輸入制限に追随するなど周辺国を自陣に引き込むことにある程度成功した。同時に中国系と思われる勢力がSNS経由で韓国、台湾を含む諸外国向けに「岸田首相が汚染水を飲んで入院」のようなデマを振りまき続けた。

中国国内向けとしては当初「人類全体への犯罪」と呼ぶなどシナリオAの動員キャンペーンとして始まったものが、話題が中国国内でもたびたび社会問題化する食の安全とも関連していたことで食塩の買い占め騒動や日本への嫌がらせの電話など当局の想定を超えて拡大したため、途中からSNS上の過激発言削除強化などで沈静化方向に切り替えている。対国内世論においても、先に広げてあとで調整していくという、ある程度コントロールに成功した事例だと言える。

対外情報発信に課題が指摘されがちな日本政府側も、測定データの即時公開とIAEA(国際原子力機関)による包括報告書を前面に押し出し、すばやく客観的・科学的言説によって反論しており、この件に関しては善戦していたといえる。ただ、自ら行うファクトの検証や発信は、感情を刺激して行動に導く力への対抗手段としては十分なものとはいえない。

またファクトチェックが働きかけられるのはあくまで関心が高い層だけであるのは人も国も同じで、中国と日々相対している東アジア諸国はともかく、国際社会の大半を占めるその他の国々を味方につける材料としては苦しい。中国と異なる戦いかたをしなければならない日本としては、対抗できるメッセージ発信のほか、周辺国それぞれの地で流される離間を目的とした敵対的な情報を共有して打ち消しながら、共同で対抗しているための体制構築が不可欠だろう。

高市首相の「台湾有事」答弁後には、「新型軍国主義」がキーワードとして提起された。日本人からするとバカバカしいと思える上、この言葉に「核汚染水」までの直観的な響きはないのは事実だが、防衛費の増額など結びつけようと思えば材料になるファクトがあるのも否定はできない。事情をよく知らない・興味のない国々への浸透力を侮るべきではないだろう。

日中関係は米中関係の従属変数

先日北京で中国官製メディアの「日本通」スタッフとこの問題の行く末を話し合っていて再確認したのは、現在の中国は対日関係を対米関係の従属変数のひとつと位置づけていることだ。これには良い面も悪い面もあり、足元の米中関係はある程度安定しているため日本との関係改善に積極的になる動機がないとも言えるし、トランプ大統領の言動は予想できずこの先どうなるかわからないからこそ、日本ともある程度の関係を保っておきたいと考えることもできる。

上述の劉勁松アジア局長が外務省幹部との会談直後に現地の日系メーカーを視察して「安心して事業活動を行って欲しい」と発言したり、高市首相を突然呼び捨てにしてみたりといったちぐはぐさは、中国側もまたこの先を読みきれず、各方向に予防線を引いておきたいという願いの発露だといえる。これは日本にとっては、悪い話ではないはずだ。

とはいえ、この問題は根源的には中国自らの内在論理によって拡大されたゲームであり、その幕引きも最終的には中国側の都合に大きく依存する。9月下旬に岩屋毅前外相が訪中した際、中国側が王毅外相や何立峰副首相らを相次ぎ同席させて厚遇したこと、また11月のAPEC首脳会議において中国側から李強首相と高市首相の会談打診がなされているという報道、福田康夫元総理死去の際の習近平国家主席から遺族への弔電などからは、中国側が自らその機会を探っていると解釈することは十分に可能だ。

提示される儀礼的な落とし所に対し日本側がどこまでそこに付き合うか、11月3日のアメリカ中間選挙という大きな変数ののち、フィリピンASEAN首脳会談、中国深圳APEC、そしてアメリカ・フロリダのG20サミットなど、年末にかけて立て続けに行われる国際会議の場において両国首脳の間で何が話されるのか、ぜひ注目しておきたい。

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