IHRAは世界各国の鉄道政策・鉄道事業のトップが集まり、高速鉄道プロジェクトの進捗について説明する会議を定期的に開催している。今年は10月8日に福岡市内で開催された。注目を集めたのはNHSRCLで財務担当取締役を務めるヴィヴェーク・プラカーシュ・トリパティ氏によるプレゼンテーションである。はたして何を話すのか。
トリパティ氏が参加するセッションが始まった。「日本政府と協力について合意し、2015年に建設を開始した。2027年8月にまず100kmの区間で最初の列車を走らせる。2030年末までに全区間を完成させたい」。発言の全体を通して、信号システムへの言及はまったくなかった。よく考えれば、日本で開催する会議ということもあり、波風を立てることを避けたのであろう。
「1つのシステムとして全体をとらえるべき」
プレゼン終了後、司会者がトリパティ氏に質問した。「計画段階で予想された課題と実際の建設で遭遇した課題の違いで、最も驚かされたことは何か、もしこのプロジェクトを最初からやり直すとしたら、どのような点を変えるか」。トリパティ氏の回答要旨は以下のとおりだ。
- どの国でも高速鉄道プロジェクトは膨大な資金を要し、長年にわたる大規模な事業であり、特有の課題はつねに存在する。
- しかし、本当の難しさは各要素をつなげるインターフェースや、システム関連の領域に存在する。土木工事も十分に困難ではあるが、システム分野に比べれば容易な部類に入る。困難とはインターフェースの問題であり、線路上で実際に車両が走り出し、通信システムが制御を担う段階に生じる。しかも高速鉄道であり、従来のインドの鉄道の常識は通用しない。
- 特に影響を受けるのはsystem of systems(複数のシステムを統合した全体システム)である。この課題には早い段階から着手すべきだ。土木工事の完了を待つことなく、あらかじめシステム関連の機器や設備を発注しておくべきだ。
- これまでの経験を踏まえてやり直せるのであれば、土木、軌道、車両、電気といった個別のパッケージの集合体として捉えるのではなく、1つのシステムとして全体を捉えるべきである。新幹線がそうであるように、新幹線システムはそれぞれを分割して別々に運用することはできないからだ。
信号システムという具体的な言葉こそないが、トリパティ氏が新幹線の基本思想の1つであるトータルシステムアプローチの重要性について語っていることがよくわかる。

