インド高速鉄道がETCSを採用したことはインド国内では広く報じられている。さらに、英フィナンシャル・タイムズ紙が10月5日付で「インド初の高速鉄道、パートナーである日本との不協和音で暗礁に」というタイトルでこの問題を取り上げるなど、インド国外でも報じられるようになった。
日本はどうか。東洋経済オンラインをはじめとした複数のネットメディアは信号システムの問題を繰り返し報じているが、新聞、テレビといったオールドメディアは無関心だ。7月15日に牧原秀樹元法相が東洋経済オンラインの記事を引き合いに、「インドの高速鉄道が進まないのは100%インド側のせい」とX(旧ツイッター)投稿したことに対し、インド外務省が「事実無根」と反発した。この一件は日本の各紙で報じられたが、信号システムへの言及はなかった。
インドはなぜ欧州式を選んだのか
なぜ、インドはATCではなくETCSを選んだのだろうか。インド国内メディアはコストの問題を指摘している。新幹線の価格がNHSRCLの想定よりも高いことから、ETCSを導入して新幹線よりも割安とされる欧州製車両を導入するのではないかというものである。
視野を広げれば、インドの「メイク・イン・インディア(インドで造ろう)」という製造業振興策も理由となる。この政策に則り、2027年8月に予定されている部分開業時には国産の準高速車両が走行する。もちろんインドは「準」がつかない高速鉄道車両の国内生産を望んでいる。
日本は将来の日本のメーカーとの合弁による現地生産を否定はしていないものの、製造技術の蓄積がないことを理由に、当面は日本で製造した車両の使用を求めている。両者のすれ違いが起きている。
メイク・イン・インディアの観点では、輸出も目標となる。その場合は、新幹線よりも世界各国で普及しているETCS対応の高速列車のほうが得策だ。こんな長期的な視野も働いた可能性はある。また、インドのアシュウィニ・ヴァイシュナウ鉄道大臣は政界入りする前にシーメンスの鉄道事業バイスプレジデントを務めていた。国の高官がETCSを熟知していることも無関係ではないだろう。

