ビタミンCで風邪が治るという考えは、50年以上にわたって大衆の心をつかんできた。その背景には、アメリカを拠点とし、ノーベル賞を2度受賞(化学賞と平和賞)した科学者、ライナス・ポーリングの存在がある。
ポーリングが大衆から擁護されていなければ、あるいは彼の態度が強硬でなければ、私たちはビタミンCについて現在のような考えをもたなかっただろう。ポーリングがいなければ、マルチビタミン市場もサプリメントで免疫をサポートするというアイデアもまったく違う様相を呈していただろう。
世界で最も偉大な化学者の主張
科学分野でいくつも肩書をもつポーリングだが、主要なものは最初の肩書でもある化学者であり、20世紀の最も偉大な化学者の1人と称されることも多い。
9歳で父親を亡くしたあと読書に慰めを見出したポーリングは、母親の願いとは裏腹に科学に熱中し、自分で考えて解決できそうな課題を探すために科学論文を読みあさった。30歳になるまでに彼が発表した論文は50本を超えていた。
1931年2月中旬、ちょうど次男が誕生したころ、「化学結合の性質(The nature of the chemical bond)」という画期的な論文を書き上げた。この論文は、通常の査読を受けることなく、科学誌に掲載された。内容をきちんと評価できるだけの専門知識を備えた科学者は、世界中を探してもいないと編集者が判断したからだ*3。
ノーベル賞を2度も受賞するくらいなので当然かもしれないが、ポーリングはどんなときも研究熱心だった*4。問題について考え抜き、全体を統べる法則や原理を導き出すことに長けていた。
彼自身も「私は無秩序できわめて複雑な問題を取り上げ……たっぷりと時間をかけて熟考し、そこになんらかの秩序をもたらす方法を見つけ出すのが好き」だと述べている*5。
だが、そのような考え方のなかに、すでに問題が潜んでいる。
単純でありながら精密で正確な法則――個々の化学反応を単独で扱う場合には例外的にうまく当てはまるが、免疫の健康と栄養のような広大なテーマ、ましてや人体全体について理解しようとする場合にはそう簡単にはいかない。変数があまりにも多すぎる。


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