25年末にようやくアメリカ初の磁石工場が商業生産を始めたばかりで、南鳥島沖採掘でのターゲットとなる重希土類(ジスプロシウム、テルビウムなど特に中国依存が強い一群)の製錬に至っては、26年になってなお本格稼働の手前にとどまっており、世界の重希土類はいまも事実上ほぼすべて中国で製錬されている。「脱中国」の道のりは、それほどまでに遠い。
それでも石井氏は、南鳥島沖で採れたレアアースの国産化を可能にする国内のサプライチェーンは、日本の技術蓄積によって実現できるだろうと語る。
「中国の技術的優位が確保されているのが現状だ。ただ、海底のレアアース泥の分離・製錬は世界で初めてのこと。最後の製錬は陸上と同じようなものだからお願いすることがあっても、分離・生成の段階では、世界初のノウハウを持ってやっていくのが一番だと思う。ここはチャレンジ精神で、日本が国を挙げての『総力研究』で取り組めば、時間はかかっても必ず成功できる、という自信を持っている」(石井氏)
レアアース生産における圧倒的な地位を手に入れたのは、放射性廃棄物を生む製錬を引き受けてきたからではないかと田中氏は分析する。
「ミネラルがないからできないのではなく、中国以外の国では製錬が難しい。中国は国内でかなりの放射性物質を出しながら、それを陸上保管している。だから、レアアースのモノポリー(独占)が達成できている」(田中氏)
中国以外でレアアース製錬をするとしたら…
レアアース製錬を引き受けている国は、世界に実質ほとんど存在しない。現状、中国以外の数少ない事例が、オーストラリア企業ライナス社だ。しかし世界第3位(シェア約7%)のレアアース生産量を誇る同国でも国内では製錬ができず、マレーシアを経由する状況が続く。
日本は10年のレアアースショック後、経営難に陥ったライナス社に政府系機関を通じて融資し、その見返りにレアアースの長期供給を確保した。製錬の工程と放射性廃棄物はマレーシアに残し、製錬されたレアアースを日本が受け取るという構造だ。
南鳥島の泥も同様に、マレーシアへ運んで製錬すればいいのではないかーー。しかしマレーシアでは放射性廃棄物をめぐって住民や地元環境団体からの激しい反対運動が続き、操業停止の危機が繰り返されてきた。中国以外に製錬を託せる場所がない以上、南鳥島の泥を掘り出した先でも今のままでは同じような袋小路の前に立つことになる可能性はある。
最短距離の「脱中国」の道すじはどこにある?
研究の段階では世界初の成果を上げているレアアース開発のプロジェクトも、それを採算の合う事業へと育てる「商業化」の段となると、まったく別の議論が必要になる。採掘が深海の環境や生態系に与える影響は、本特集のこれまでの記事で検証したように商業規模ではまだ評価されていない。収益化を目指す中で、製錬の段階で結局は中国に頼らざるをえない構造も、現状のままでは当分変わらない。
「特定国への依存を低減」するという意味での研究開発を進めるにしても、「資源調達源の多様化」のために、海底レアアース泥以外の道は日本にあるのだろうか。クリンガー博士は取材の中で「日本が都市鉱山や電子廃棄物のリサイクル能力を高めることで、放射性廃棄物の問題を根本から回避することを目指す道もある」と語った。
「深海採掘のいかなる提案に対してもまず問われるべきなのは、リサイクルと都市鉱山の未活用ポテンシャルがどれだけ残っているか、という点だ。日本はすでにこの分野で大きな進歩を遂げている。しかしそれでもまだ活かしきれていない可能性は十分ある」(クリンガー博士)
日本には、使用済み製品からレアアースを回収する「都市鉱山」やリサイクルという技術の蓄積がある。つまり資源確保における中国依存を減らす道を、深海採掘以外にも見出して投資していくべきなのではないかという示唆だ。
ただ、現状として世界のレアアース需要のうちリサイクルで賄えているのは1%に満たない(IEA、国連Global E-waste Monitor)。レアアースは製品の中に低濃度で含まれているため回収が難しい上に、回収・分別の仕組みも整っていない。
リサイクルは中国依存を減らす一つの手段ではあっても、それだけで供給をまかなえる最短の「切り札」にはまだ、なりえないだろう。その文脈では南鳥島のレアアースで仮に商業化が実現すれば、資源に乏しい日本の自給率を高めうるという点で、可能性に夢を見て国運をかける動きは理解できる。
一方で、実際に商業化を目指すとなれば採算の見通しが立たず、国内製錬の問題も課題が山積みだ。現場の研究者でさえ「数年以内の商業化は現実には難しいだろう」と語る中で、それでも数年内の商業化を目指して急ぐことが、本当に依存軽減への最短距離なのだろうかーー。どの道にも課題がある以上、選択肢を慎重に見極める時間は、まだ残されているはずだ。
石井氏自身も、このプロジェクトを長い時間軸で見てほしいと繰り返す。
「まだまだ研究開発の段階である。よく『もう仕上がってるんでしょ』『レアアースの国際情勢が緊迫してきてる』『中国がやってもいいのか』と言われるが、研究開発はきちんとステップを踏んでいくことが何より重要だ。 中国がやっても、それはレアアース鉱石であって、我々のレアアース泥からというのは世界で初めてのことに挑戦しているのだから、温かく長い目で見てほしい」(石井氏)
世界初の採掘に成功し、ISAの理事国でもある日本は、世界的にもこれからの深海をめぐる国際秩序を左右しうる大事な位置にいる。
次回は、合意がいまだ定まらない深海の分野で日本が立つ岐路の景色を、国際ルールの視点から読み解いていく。
(次回へ続く)


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