1950年代当時、すでにアメリカでは原子力の平和利用を進めていたが、確認されているウラン資源は少なかった。他方、トリウムは豊富に確認されており、50年代からトリウムを国家備蓄していた。ところが十分なウラン資源が見つかったため、59年にトリウムの国家備蓄をやめた。
並行して溶媒抽出法の実用化により、レアアースの用途開発が進んでレアアースの生産が拡大した。その廃棄物としてトリウムが生まれ続けたが「用途がない」とみなされ、かつ放射性であるためその対処にコストばかりがかかることから、トリウム廃棄へのコストをかけなかった中国に価格競争で負けてレアアースの寡占を許すようになった。その始まりはこの国家備蓄の停止によるのだ。
深い結びつきがあるレアアースと原子力
日本でレアアースに長く取り組んでいる団体に新金属協会がある。新、というのは、それまでの主要な金属である銅や鉄などではなく、新たに市場価値を見出されてきた金属、すなわちレアアースのことである。
1956年2月16日に「日本希元素協会」を母体として「半導体懇談会」が合体し、原子力金属懇話会として発足したことに始まる。不思議なことに、レアアースは原子力との結びつきが深い。
その新金属協会が出版したその名も『レア・アース』(改定4版)という書籍がある。ここには日本のレアアース開発の歴史が綴られているが、その299ページに注目すべき記述がある。
「レア・アースと同時に生産されるトリウムを諸外国同様に核燃料として政府機関が備蓄買上げをしてくれるように、昭和31年ごろより政府や原子力委員会に要望したが、我が国では将来何が核燃料として使用されるようになるかまだ不明であるとして最終的には昭和35年にこの要望は受け入れられずに終わったのである」
この時に、政府がトリウムを国家備蓄していれば、日本はトリウムを外部不経済として忌避することなく、海外のレアアース資源を資源国とともに協力しながら開発したであろう。そして、レアアース鉱石そのものを輸入し、国内で製錬を実施し、磁石などのレアアース使用製品を潤沢に生産・供給するレアアース大国になるだけなく、トリウム原子力の輸出大国になり、地球温暖化対策で世界をリードする国にすらなれていたかもしれない。
現在でも、トリウムについて経済産業省や資源エネルギー庁に相談に行くと、原子力のありようは「原子力政策課」で、レアアースは「鉱物資源課」で、と案内される。そのタテ割りの視点で見ている限り、トリウムはどこからも対応をされなくなる。
それらを俯瞰する分野横断型の事象としてトリウムを捉えなければ、トリウムの意味と価値に気づいた他国の周回遅れとなってしまうし、すでにそのようになっている。
アメリカ、デンマーク、グリーンランドの3カ国首脳は26年9月22日、グリーンランドに新たに2つの軍事拠点を設置する安全保障協定に署名したと報道されている。協定はアメリカの軍事的アクセス・基地設置を大幅に拡大するとともに、資源開発を含む重要分野への第三国の影響・投資について安全保障上の制限を設けている。
グリーンランドには豊富なレアアース資源がある(「レアアース確保の陰で膨らむトリウム、日本は『使うだけ』の国でよいのか、日本が避けて通れない国家備蓄論」参照)。グリーンランドのレアアース資源開発を行う際に同伴して発生するトリウムを放置せず、それを活用する手立ても提示する国が現れたならば、グリーンランドはその提案を受け入れないだろうか。
トリウムを用いるにはマッチの先が必要だ。そのためにプルトニウムの活用も想定しているとしたらどうだろうか。日本は、相手の求めるものを提供できているだろうか。
それができなければ、日本が必要とされなくなる日も遠くはない。

