井上医師は、救急車の不適正利用の話をする際に、きまって冒頭のエピソードを紹介しているそうだ。このエピソード自体は、県が緊急性の低い救急車利用を控えるよう促す取り組みを始める前のものだが、井上医師は次のように話す。
「救急搬送では時間との勝負で、交通事故で重傷な人を診たり、緊急度に応じて優先的に検査に回したりする必要がある。救急車が同時に複数台、到着すれば、緊急度に応じてトリアージ(優先順位付け)しなければならないなか、複数の重症患者の対応中に歩いて救急車から降りてくるような軽症が紛れ込んでいると、それだけで現場が混乱してしまう」
緊急性低い救急搬送の費用を徴収
茨城県では、2024年12月から緊急性が認められない救急搬送だった場合、「選定療養費」と呼ぶ費用を患者から徴収する取り組みを県単位では全国に先駆けて開始している。
この取り組みに対して、一部のメディアは救急車の“有料化”と報じているが、少し趣が違う。
選定療養費とは、患者が自分で選んで受ける特別な医療サービスや、紹介状なしで大学病院などを受診した際などに、通常の医療費とは別に追加で支払う費用のこと。国が2016年4月から始めていて、同県はこれを救急搬送に適用した。
つまり、救急車搬送で緊急性があると認められなかった場合は、紹介状を持たずに大病院を受診したことと同じ扱いにしたというわけだ。
県は、救急車を呼ぶ際の判断の助けになるよう、「緊急性が認められない可能性がある主な事例」と、「緊急性があると判断される可能性が高い主な事例」をガイドラインの形でまとめた(表)。そのうえで、緊急性が認められなかった場合、大規模な病院(200床以上、以下、大病院)への搬送で、選定療養費を徴収するようにした。



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