例えば埼玉県では、北辰図書が主催する「北辰テスト」と呼ばれる業者模試が、長年にわたって実施されている。実は、先述の「偏差値追放」のきっかけも埼玉県だった。それ以前、県内の公立中学校では、校内で北辰テストが実施されていた。
では、令和の埼玉県では、どのような併願制度となっているのだろうか。
中学3年生になると、県内の高校受験生は外部会場で北辰テストを複数回受験する。その結果表を持って、私立高校が開く「個別相談会」に足を運ぶ。表向きは、高校の説明や進路相談を行う場だ。
しかし実態は、北辰テストの偏差値を基に、入試前に合格の見通しを確認する場となっている。私立高校側は、あらかじめコースごとの基準を示す。「特進コースは偏差値63、進学コースは偏差値60」といった具合だ。保護者は北辰テストの結果表を持参する。基準を満たしていれば、受験生の情報が高校側のリストに載る。
ただし、ここで「合格を保証します」とは言わない。合格の「確約」は禁止されているからだ。その代わりに、「安心して受けてください」「大丈夫ですよ」といった言葉が使われる。実質的な合格の確約だ。
象徴的なのが、埼玉県が25年10月、県内の私立高校に対して「業者テストを合否判定に利用していないか」と尋ねた際の回答だ。すべての高校が「利用していない」と答えたという。その回答を、受験現場はどう受け止めたか。埼玉県の高校受験は、制度上の建前と現場の常識との乖離を、極めてわかりやすい形で映し出しているように思う。
「進学塾との関係」が背景にあるケースも
また、私が把握しただけでも、少なくとも都内8校の私立高校では、進学塾とつながる形で、業者テストの偏差値を基にした「確約」が行われている。
例えば、大手進学塾Xは、進路指導の際に滑り止めとして私立A高校を積極的に勧める。背景には、難関大学を狙える優秀な生徒をA校に送り出すことと引き換えに、模試の偏差値を基準とした合格の確約を出してもらうという関係がある。
この仕組みにより、進学塾Xは「内申点は低いが学力はある」という受験生に対し、確実な滑り止めを提供できる。私立A高校にとっても、第一志望に届かなかった高学力層を確実に取り込むことで、自校の進学実績向上につなげられるというメリットがある。
私立A高校は近年、難関大学の合格実績を伸ばしている。その実績を高校の教育力だけで説明するのか、それとも進学塾との関係も要因の1つと見るのか。ここは検証が必要だろう。
別の大手進学塾Yと、近年進学実績を伸ばしている私立B高校との間にも、同様の関係がある。進学塾Yの人間は「知っているのは私立B高校の中でも数人だけ」と話す。保護者には、中学校に口外しないよう求めているという。


※ログイン後、コメント入力が可能です。