窪田:では、テクノロジーを使いながら、そうした機会をどう残せばよいのでしょうか。
大川内:テクノロジーを使うことと、身体を使って世界に働きかけることを、二者択一にしないことです。技術を使いながらも、そうした機会を意識して残していくことが重要だと思います。
石を投げ、水の動きを見る
窪田:世界に働きかける経験は、特別な場所や大がかりな教育がなくてもつくれるのでしょうか。
大川内:できると思います。私自身、高校時代には、友人と図書館で勉強に飽きると、佐賀城のお堀へ出て水面を眺めていました。身近な場所でも、見方を変えると、いろいろな発見があります。
窪田:たとえば、どんなことを発見したのでしょうか。
大川内:もともと理系で物理が好きだったので、魚が跳ねて水面が揺れる様子を見ながら、「波はどう広がるのか」「波と波がぶつかると波形はどうなるのか」と考えていました。そこで石を投げ、水の動きを自分でも確かめてみる。観察するだけでなく、試してみることが面白かったのです。
窪田:自分で働きかけ、その反応を確かめることが大切なのですね。
大川内:そうです。こうした経験は、必ずしも特別な自然環境や道具がなくてもつくれます。たとえば、お風呂で子どもと水を揺らし、浮かべたものがどう動くかを見てみる。それだけでも、自分が働きかけ、世界の反応を観察し、もう一度試すという往復が生まれます。そうした往復が、豊かな身体経験になると思います。
窪田:では、日常の中でそうした経験をどうつくればよいのでしょうか。
大川内:大切なのは、高度な設備があることではなく、自分で試し、環境がどう反応するかを見て、また試すことです。都会にいても、テクノロジーが身近にあっても、その経験はつくれると思います。
窪田:人類学の参与観察では、その「働きかけと応答」をどのように捉えるのでしょうか。
大川内:自然科学の研究では、観察する対象と観察者を切り分け、条件を統制して対象を捉えるのが一般的です。一方、人類学の参与観察では、研究者自身もその場に身を置き、相手と話し、一緒に過ごします。その過程で、自分の存在や働きかけに対して相手がどう反応するかも含めて、その場で起きていることを理解していきます。ルノーと日産の話も、まさにそのような往復だったと思います。



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