有料会員登録
キャリア・教育

迷わない社会で失うものがある、「世界との摩擦」を取り戻すにはいったいどうすればよいのか

6分で読める
便利さの裏で失っているものとは?(写真はいずれも本人提供)
  • 大川内 直子 文化人類学者/株式会社アイデアファンド代表取締役
  • 窪田 良 医師、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO
2/3 PAGES
3/3 PAGES

窪田:技術で効率化できた分、その余白に五感を使う経験を意識的に置く必要があるということですね。

大川内:はい。見る、聞く、触る、味わうといった感覚を通じた経験は、人生や人間性を豊かにしますし、私たちが何に気づき、何を考えるかにも影響を与えると思います。

技術を「昔の生活」に近づけるために使う

大川内:窪田先生は技術を開発する立場でもあります。人間の健康のために技術を使ううえで、どのような視点を大切にしてきましたか。

窪田:私は遺伝学を背景に持つので、進化という視点から考えることが多いです。食生活の変化や運動量の低下、屋外で過ごす時間の減少、化学物質への曝露など、現代病の多くには生活環境の変化が関わっていると考えています。

大川内:進化という視点から見ると、技術にはどのような役割が求められるのでしょうか。

窪田:私は、人間の身体が長く適応してきた生活に、技術によってどこまで近づけられるかを考えてきました。人類の進化の時間軸から見れば、この100年、1000年の暮らし方は極めて新しく、身体にとっては適応しきれていない面もあります。

大川内:昔の生活そのものに戻るのではなく、その環境が持っていた要素を技術で補おうとするわけですね。

窪田:その通りです。実際にその発想は、「クボタグラス」の開発にもあります。昔の人が屋外で長く過ごしていた環境に近い光の条件を、技術でどう提供できるかを考えました。

現代人は「木に登る能力をなくしてしまった人」

大川内:便利な社会で暮らす私たちは、実は失っている力もあるのかもしれません。伝統的な生活を送る人々から見れば、木に登る、食べられる野草を見つけるといった能力をなくしてしまった人に見えるかもしれませんね。

窪田:そうです。便利さには、得るものと失うものがあります。人間以外の生き物も、それぞれの環境で生き抜き、繁殖し、種を維持するために、固有の能力を高度に発達させています。能力を単純に優劣で比べることはできません。

大川内:では、人間は何を基準に、技術や暮らし方を選んでいくべきでしょうか。

窪田:大切なのは、優劣を決めることではありません。自分たちが健康に、長く生きるために何が必要かを考えることです。便利さの中で失ったものにも目を向け、謙虚に暮らし方を見直す必要があると思います。

大川内:技術は、人間を身体から遠ざけるだけのものではありません。何を技術で補い、何を自分たちの経験として残すのか。その選択を人間が考え続けることが、技術の主導権を持つことなのかもしれません。

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

キャリア・教育

人気記事 HOT

※過去1ヶ月以内に配信した記事の閲覧数