転倒から1カ月あまりで余命2週間の宣告。これが“高齢者の入院あるある”コースのリアルである。家族は親が亡くなることの心構えもなく、胃ろうの知識もない。あまりの急展開に呆然とするばかりだった。
看取りか胃ろうという2択を迫られて、家族は誰も決められない。ここで初めてベッドで朦朧としているKさんに、どうしたいかを問いかけてみると、はっきりとした答えが返ってきた。
「もう十分生きたから、治療はいらない。家に帰りたい」
家族は希望を受け入れて胃ろうを断り、看取りのためにKさんを退院させた。その看取りのサポートをお願いしたのが、旧知の萬田氏であった。
本人の“心にいいこと”だけを考える
萬田氏の方針は「患者が望むこと」を全力でサポートすること。医療的に身体にいいことより、本人の“心にいいこと”だけを考える。自宅に帰ってきたKさんの望みは食べることだった。
「看取り覚悟だったので、家族に迷いはありません。Kさんは水から始まり、好物のさつまいも、湿らせたカステラ、アイスクリームまでむせないように少しずつ食べて、『うんめえ~』とご機嫌でした」
絶食はせず、本人が望むものを望む範囲で家族が食べさせるという萬田氏の方針によって、Kさんは自慢の歯でどんどん食べられるようになり、元気を取り戻していった。
ところが、退院5日目に新たな問題が勃発する。Kさんに認知症の症状が強く出現してきたのである。
夜中に大きな声を出して家族を呼ぶ、オムツの中に手を入れて便をつかんでこねる。看取り覚悟だった家族に、24時間介護がのしかかってきた。萬田氏はすかさずKさんの短期施設入所を提案し、施設と自宅を定期的に行き来する体制を作った。
2カ月が過ぎて、Kさんは生きていた。
生活パターンが定着すると、家族をヘコませた便をこねる行為はやらなくなった。


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