30年ほど前に筆者が日本銀行で為替介入の担当者をしていた頃、上司に「アメリカの財務省やFRB(米連邦準備制度理事会)が日本の為替介入をあまり好ましく思わない理由の1つは、米国債市場が歪められるから」だと教えられたことがある。アメリカの当局は、市場の動きを細かく分析し、読み取れる変化を基に政策を決める。だから、介入で日本の当局が多額の米国債を買ったり(円売り介入の場合)、売ったり(円買い介入の場合)するのを好ましく思わないというのだ。
ウォーシュFRB議長は今年8月のジャクソンホールでの講演で次のように発言した。「政策を正しく行うためには、金融市場と中央銀行の間の関係性を正しく築く必要がある。FRBは、(中略)米国債の価格と取引高、ドルの価値、(中略)幅広いコモディティーの価格などからの、可能な限りフィルタリングされていない明確な市場シグナルを必要としている」。この発言を聞く限りFRBのスタンスは30年前と変わっていないようだ。
米国債のような大きな市場の動きは歪められない
しかし、本来市場の申し子であったはずのベッセント財務長官は、政治的な圧力からか、アメリカの当局者が大切にしていた価値観を失っているように見える。ベッセント氏は米長期金利が上昇を続ける中、8月19日に満期10年超の米国債のバイバックを倍増させるとアナウンスした。米長期金利が一時低下したもののすぐに反転上昇すると、財務省一般勘定(TGA)の資金を活用した買い入れ額増加を示唆し、市場の動きを無理やり抑え込もうとしたが、逆にその後、米長期金利は大きく上昇した。対症療法で米国債のような大きな市場の動きを歪められないことは、ベッセント氏自身が最もわかっていたはずだ。長期金利上昇という市場のシグナルを無視して無理やり抑え込むのではなく、背景にあるファンダメンタルズに目を向けるべきだった。
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