汎用ツールの開発会社は、できるだけ多くの企業に使ってもらうために最大公約数的な機能を実装する必要があり、個別企業の暗黙知を組み込む余地は限られます。つまり、共通している部分を共通のやり方で処理する以上、同じツールを導入した競合とは差がつかないということです。売上に直結する味付けの領域まで汎用ツールで済ませようとすると、本来活かすべき独自性が埋もれてしまいます。
熟練者しか読めなかった「波形」
ある検査専業企業の例を紹介します。
プラントや工場の電熱管は、壁が摩耗や腐食で薄くなる減肉が進むと穴が開き、重大な事故につながります。そのため管を壊さずに劣化を判定する非破壊検査が欠かせません。この企業は独自の検査技術を持ち、データの高速採取に強みがありました。ところが、採取したデータの解析には高度な専門知識が必要で、読める人材が限られていたのです。データを取るのは速いのに、読むのに時間がかかる。将来的な検査件数の増加を見据えたとき、このギャップが事業拡大の制約になることは明らかでした。
波形の読み方には、長年の経験に基づく暗黙知が多分に含まれます。マニュアル化だけでは引き継げません。まさに味付けの領域であり、汎用ツールで代替できる種類の仕事ではありませんでした。
そこで取り組んだのが、解析工程に組み込むカスタムAIの開発です。減肉信号は瞬間的に現れて振幅も変動するため、一般的な異常検知手法をそのまま流用することはできません。複数のニューラルネットワークモデルを開発し、それぞれの判定を組み合わせることで、単一モデルより安定した精度を実現しました。同時に、既存の解析ソフトウェアとの連携方法や人との役割分担も最初から設計に含め、最終的な不良判断は熟練者の目で確認する工程を残しつつ、AIが一次的なスクリーニングを担う形に着地させています。


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